2024年04月26日( 金 )

毎年襲い来る豪雨災害にどう備え、どう対処すべきか――(後)

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立地による災害リスク

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 前出の大雨特別警報の【表】を見てもわかるように、近年の豪雨は、北は北海道から南は沖縄まで、それこそ全国津々浦々で発生している。もちろん地形によって雨の発生しやすさも変わってくるものの、断層の有無に左右される地震災害と違い、豪雨災害に関しては日本全国どこにでも発生リスクがつきまとっているといえよう。

 だが一方で、豪雨災害による被災箇所を見ると、過去の災害でも甚大な被害を受けたところが、その傷も癒えぬうちに再度被害を受ける―といったケースも珍しくない。たとえば3年前の九州北部豪雨で被害を受けた筑後川の上中流部は、今回の豪雨でも再び浸水被害を受けた。こうした、いわば被災地の“常連”という不名誉な称号をもっている地域・箇所は少なくない。また、都市成長の過程で郊外へと市街地が拡大していった結果、本来であれば住宅・建物の立地に適さない場所で無理に開発を進めてしまい、そこが災害発生時に被害を受ける―というケースも多々ある。

 18年の西日本豪雨で土砂災害が発生して2人の死者を出した北九州市門司区の住宅地や、少し遡るが14年8月に土砂災害が発生して死者77人を出した広島市安佐南区・安佐北区の住宅地などは、斜面地において急激に無秩序な開発が進められた場所だ。やはり「昔から人が住むことを避けていた場所」には、それなりの理由があるのだ。

 今回の豪雨では、熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」が水没し、入居者14人が犠牲になったが、同施設は球磨川と支流の小川が合流する地点に位置しており、一帯は洪水の恐れがある「洪水浸水想定区域」に入っていた。いわば、ここも従前より災害リスクが指摘されていた地域にあたり、そのリスクが最悪なかたちで現実になってしまった。

 こうした立地による災害リスクを減らすため、16年9月に改正・施行された都市再生特別措置法のなかで、各都市での「立地適正化計画」の策定を求める旨が盛り込まれた。これは、急激な人口減少と高齢化が進むなかで、人々の住まいや公共施設、医療施設、商業施設などを一定の範囲内に収めて「コンパクトなまちづくり」を行うのと同時に、市街地の空洞化を防止しようとするもので、不必要に拡大していった都市を適正な規模へと戻すイメージだ。

 今年6月には、都市再生特別措置法および都市計画法のさらなる改正が成立。頻発・激甚化する自然災害に対応するために、災害ハザードエリアにおける新規立地の抑制や、災害ハザードエリアからの移転の促進、居住エリアの安全確保などが盛り込まれた。

 これにより、崖崩れや出水などの恐れがある災害危険区域や土砂災害特別区域などの「災害レッドゾーン」における自己業務用施設(店舗、病院、社会福祉施設、旅館・ホテル、工場など)の開発が原則禁止されるほか、浸水ハザードエリアなどでは市街化調整区域における住宅などの開発許可も厳格化。また、立地適正化計画においては、居住誘導区域から災害レッドゾーンを原則除外するほか、記載事項に「防災指針」を追加するなど、防災を主流化する方向で強化を図っている。

 ほかに自治体独自の動きとしては、災害の危険性がある斜面住宅地を新たな住宅開発抑制のために市街化調整区域へと再編入する“逆線引き”の取り組みを進めている、北九州市のような事例もある。たとえ土砂災害や洪水・浸水などが起こっても、その被災箇所に人が住んでいなければ、人的被害の発生だけは免れることができる。こうした災害リスクの高い場所に「人を住まわせない」「開発をさせない」という行政側の動きは、豪雨災害の発生がもはや当たり前となった今の日本においては、至極当然の流れだといえる。

 昨年10月の台風19号による武蔵小杉や二子玉川での洪水・浸水被害が記憶に新しいように、たとえ首都圏などのある程度インフラが整っているかに思える都市部であっても、災害リスクは付きまとう。山地や高台では土砂災害などのリスクが、平野部や盆地では洪水・浸水などのリスクがあり、もはや日本においては「ここだけは絶対に安全」といった場所はないに等しいのかもしれない。

 大規模災害の報道がされるたびに、被災地以外の多くの人が「被災地は大変だ」「自分の住むところでなくて良かった」と“対岸の火事”的に思ってしまうケースもあると思うが、今回は運良く難を逃れただけで、「次は自分の番かもしれない」という意識は個々人がもっておきたいものだ。そのうえで、日頃からの備えを含めた「自助」の取り組みを1人ひとりが進めていかなければ、頻発・激甚化する自然災害から身を守ることはできないだろう――。

(了)

【坂田 憲治】

(前)

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