2024年04月26日( 金 )

ニューヨークは必ず再起する(後)

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大嶋 田菜(ニューヨーク在住フリージャーナリスト)

今の最大の関心事項は学級閉鎖

 ロックダウンがあっても潰れなかった飲食店や小店は、今では少し楽になっているはずだ。ニューヨーク人にとって今もっとも関心の高い問題は、むしろ学級閉鎖だ。休校状態は今後1年続く可能性がある。もし授業が再開されても週わずか1日のみの授業で、残りはすべてオンライン授業かもしれない。クオモ・ニューヨーク州知事、デブラジオ・ニューヨーク市長は「親と生徒たちの要望に従って、新学期になってもすべてオンライン授業にするかもしれない」と言う。そのせいか、多くのニューヨーク人がこの大都会を去り始めている。

 金持ちは州北部の別荘へ、学生たちは故郷へ、子連れの家族はニューヨークより安くて広いコネチカット、ニュージャージーの郊外へと、まるで戦争が発生したかのように逃げていく。こうしてみると、マンハッタンのミッドタウンやダウンタウンに珍しくほとんど人がいない理由も理解できる。世界一の文化都市ニューヨークといえども、ブロードウェイの劇場、博物館、美術館、図書館、チェルシーやロアー・イーストサイドのアートギャラリー、ウエストビレッジのジャズクラブなどの多くの文化施設が閉館となっている今、物価が高くて狭いこのニューヨークに住む価値はないと感じる人も少なくない。いつも町を混雑させていた観光客も、急に雨が止んだかのように、春からまったく来ていない。

ニューヨーク特有のエネルギーは失われていない

 とはいっても、まだほとんどの人がこの都会にしがみついて生きている。逃げ場のないクイーンズ、ブロンクス、ウェストブルックリンやハーレムの人たちや、地下鉄、バス、自転車に乗ってしっかりとマスクしながら毎朝働きに出ている人たち。ニューヨークで生まれ育ち、このような時だからこそまちに残ってあげたいと感じている人たち。人のいない、からっぽの市内をあちこちで味わっている人たち。このようなわけで、この街特有のエネルギーはまだ失われていない。耳をすましてじーっと見ていると、そのエネルギーが伝わってくる。

 数カ月前までメトロポリタン美術館で直接鑑賞していた美術品の数々は、今では無料で世界中からネットで見ることができる。リンカーンセンターの優秀なジャズ・ミュージシャンも、自宅のリビングルームで楽器を鳴らして全世界に向けてライブコンサートを提供している。以前は行けなかった有料の、または遠くのイベントも、今では無料でどこからでも楽しめるのだ。小説家、詩人、アーティストなど、まるで地球が恋しい宇宙飛行士のように、ネットで人間との触れ合いを求め続けている。人々もそれに応じて、この新しいデジタル世界に勢いよく飛び込んでいく。

(了)


<プロフィール>
大嶋 田菜
(おおしま・たな)
 神奈川県生まれ。スペイン・コンプレテンセ大学社会学部ジャーナリズム専攻卒業。スペイン・エル・ムンド紙(社内賞2度受賞)、東京・共同通信社記者を経てアメリカに渡り、パーソンズ・スクールオブデザイン・イラスト部門卒業。現在、フリーのジャーナリストおよびイラストレーターとしてニューヨークで活動。

(前)

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