2024年03月29日( 金 )

相次ぐマンションの設計偽装

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協同組合AISO 代表理事
構造設計一級建築士
 仲盛 昭二

 構造設計一級建築士の仲盛昭二氏は、発覚が相次ぐ耐震偽装マンションに関し、マンション販売会社・設計事務所・行政に対して質問書を送付した。なぜ、この時期に仲盛氏が耐震偽装をあえて告発しているのか、緊急寄稿していただいた。(編集部)

官民一体となったマンション構造偽装

 新型コロナウイルス感染拡大による混乱のなか、なぜ私がマンションの耐震問題を提起したのか? それは、区分所有者の生命と資産を守るためです。2005年に姉歯耐震偽装事件が起き、国道交通省は07年に建築基準法改正を行って建築確認の厳格化を図りました。法改正後に構造計算の偽装は激減しましたが、いまだにゼロではありません。

 1つの例が 東京の豊洲市場における日建設計による設計偽装です。日建設計は日本最大の設計事務所であり 東京スカイツリーをはじめ著名な建築の設計に関わっていますが、豊洲市場のような稚拙な設計も行っています。豊洲市場の設計偽装は、発注者で計画通知(民間の建築確認に相当)の審査を行った東京都が日建設計を擁護し、司法である東京地裁までも行政の東京都に忖度し、実質審理を行わないまま結審という三権分立が崩壊した異常な事態となっています。

 福岡市のマンションでは、アンピール香椎およびアンピール百年橋において設計の偽装が判明したので、販売会社である新栄住宅と設計事務所2社、さらに建築確認を行った福岡市に対して質問書を送付しました。新栄住宅は「設計事務所に確認したが問題ない」と具体的な回答を避け、設計事務所2社は「新栄住宅から回答する」と口裏を合わせた回答でした。福岡市は「適合を確認のうえ確認済証を交付したと思われる」という回答であり、適合を確認した具体的な根拠などは一切示されませんでした。

法令違反のマンションは「建て替え」か「買い取り」をすべき

 豊洲市場や福岡の案件とは別に、別府市にある私が所有する鉄骨鉄筋コンクリート造マンションにおいても設計の偽装が明らかになっています。これについても区分所有者として、建築確認を行った大分県および別府市に対して質問書を送付しました。大分県は「建築確認資料の保管期間が過ぎている。確認済証と検査済証を交付している」と回答、別府市は「大分県から書類を引き継いでいない」という回答でした。大分県と別府市の回答文書には公文書番号の記載がないので正式な公文書ではなく、それぞれの課長が作成した「私文書」に過ぎません。要するに逃げ道をつくっているのであり、これは市民を愚弄した行為です。

 マンション販売会社も行政も、区分所有者や市民のことを微塵も考えていません。「法令規準(構造耐力)を満たしたマンションを設計し、適正な構造計算・図面に基づいて施工されたマンションを分譲する」という当たり前のことが行われておらず、この点を問い質せば行政までもが隠ぺいに走るという有り様です。

 南海トラフや首都直下型地震などの発生が想定され、各地で震度4程度の地震が頻発し、6月25日には千葉県で震度5弱の地震が発生しました。耐震偽装マンションの区分所有者は耐震強度が不足したマンションを所有してそこで暮らしていますが、法令上の耐震強度を有していないマンションは販売価格に見合う価値を有していないのです。区分所有者は実質の価値以上の住宅ローンを支払い続け、固定資産税も納付しています。法令規準を満たしていないマンションを販売したマンション販売会社は適切な対応をすべきです。

 05年の姉歯耐震偽装事件の後、各地の行政が日本建築構造技術者協会などに発注して構造計算書の検証を行いました。その検証においても前述した偽装はチェックされておらず、ここに至って私が偽装を指摘しなければならなくなったのです。独自に再検証をした物件では、8割以上の確率で偽装が判明しています。法令規準を満たしていないため、マンションを売却しようとしても難しいでしょう。運良く売却できたとしても、法令規準違反の事実を知った買主から訴えられることもあり得ます。

 マンションが法令規準違反状態となっている第一義的な責任はマンション販売会社にあります。区分所有者はマンション販売会社に対して、「マンションを適法な状態に戻せ! それができないなら建て替えるか買い取るかの対応をせよ!」と要求すべきです。マンション販売会社は法令違反で販売価格に見合う価値のないマンションを販売して利益を上げているのですから、要求に応じるべきです。要求に応じないマンション販売会社は今後、消費者から敬遠されることになるでしょう。

震度7の地震を想定し製作したCG

無責任な販売会社には厳しい処分を

 本質的に意味のない回答でも明らかなように、行政は建築確認業務についてまったく責任をもちません。07年の建築関連法規改正を機に建築確認審査も厳しくなり、建築コストは大幅に上昇しています。行政が法令規準に違反した建物を黙認するので無法地帯となっており、建築コストの上昇を招く法令規準に意味がなくなっています。必要な法令規準は厳しく適用し、不要な法令規準は撤廃を考えるべきです。さらに、法令規準を満たしていないマンションを販売して責任も取らないような販売会社は厳しく処分をすべきだと考えます。

 今後、ここに記したことに関連して判明したことは裁判などを通じて、私の責任において公表していく予定です。

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