2024年04月30日( 火 )

復活の道が見えない日産自動車の研究(6)

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公的資金投入第2号は日産か

 政府による公的資金投入第2号は、いずれの企業だろうか。いうまでもなく、日産自動車だろう。日産はゴーン時代の過剰投資による業績不振にありながら、ゴーンショックの後遺症による内紛で時間を空費して、有効な改善策を打ち出せなかった。そこに新型コロナショックが追い打ちをかけた。

 日産の21年3月期の純損失は6,700億円の赤字になる見込みで、20年3月期の6,712億円に続く2年連続の巨額赤字になる。カルロス・ゴーン前会長の手で経営再建に着手した00年3月期の最終赤字(6,844億円)に匹敵する赤字を2年連続で計上するという衝撃的な数字が出ている。仏ルノーに駆け込んだときよりも、業績ははるかに優れない。

 経産省は「内田誠社長では心もとない」(自動車担当アナリスト)と気にしている。そのため、コロナ対策で2次補正予算に組み込まれた企業向けの劣後ローンを「日産にも投入する」という見方が急浮上してきた。
経産省にとって「心もとない」という意味は、「経営者としての手腕もさることながら、ルノーの意向で選ばれた人なので、(日産が)このままルノーに飲み込まれ、ルノー傘下になってしまいかねない、という危機感だ」(同)という。

仏政府が日本政府に、ルノーと日産統合を迫る

 「2019年1月18日までに来日していた仏政府出身のマルタン・ビアル・ルノー取締役ら同国政府の代表団が、仏ルノーと日産の統合構想を日本政府関係者に伝えた」と日本メディアが報じた。日産とルノーが共同で持株会社を設け、傘下に両社をぶら下げる案を示したという。

 日産とルノーは三菱自動車(株)(日産が34%を出資)を加えた3社で企業連合を組む。ルノーは日産の43.4%を、日産はルノーに15%をそれぞれ出資する。そのため持株会社方式で経営統合すれば、ルノーの筆頭株主である仏政府が新設する持株会社の大株主になる。

 ルノーは収益面や研究開発などで日産への依存度が高い。仏政府は両社の提携を後戻りできない関係にしたいという思惑があり、これまでにも両社の経営の一体化を求めてきた。日産を仏企業にして、仏国内に大自動車工場を建設して、雇用を生み出すのが狙いだ。

 この意向を受けて、ゴーン元会長が両社の経営統合に動いたが、具体的協議に入る前に、クーデターで失脚した。そのため、仏政府が前面に出てきたわけだ。

仏政府=ルノーから日産を取り戻すチャンス

 ゴーン氏は「自分を追い落としたのは、西川廣人前社長と日本政府すなわち経産省が示し合わせた謀略だ」と語っている。その西川氏は解任され、新たに新設された指名委員会の委員長・豊田正和氏は、元経済産業審議官(次官につぐ事務方ナンバー2)で、経産省の元エリート官僚だ。

 西川氏は豊田氏の後ろ盾を期待したが、あっさりクビを切られた。経産省の意向であることはいうまでもない。経産省は息がかかった経営者を引っ張ってきて、後任の日産社長に据えようとしたが、うまくいかなかった。結局、「毒にも、薬にもならない」と評される内田氏を社長に据えることで、ルノー側と手打ちした。

 コロナ禍によって、日産は未曽有の経営危機に陥った。経産省にとっては、仏政府=ルノーから日産を日本企業に取り戻す、千載一遇のチャンスだ。公的資金を注入して、日本政府すなわち経産省が日産の後ろ盾となり、大物経営者を外部から招いて、日産の再生に当たらせる、というシナリオだ。

 日産に公的資金が投入され、国の管理下に置かれる日は近い。

(了)

【森村 和男】

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