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2020年08月27日 07:00

「新型コロナ」後の世界~健康・経済危機から国際政治の危機へ!(10)

東京大学大学院法学政治学研究科 教授 小原 雅博 氏

 新型コロナウイルスはイデオロギーもルールも関係なく、国境や民族を越えて人類を襲った。そして今、コロナ危機は健康、経済から国際政治や外交、安全保障の領域にまで拡大している。
 東京大学大学院教授の小原雅博氏は近著『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(ディスカヴァー携書)で「危機はこれまでは、国家や民族意識を高めてきたが、今の私たちは監視社会でない自由で開かれた社会を築くと同時に、感染症に屈しない強靭な社会を築かなくてはいけない」と述べている。小原氏に新型コロナ後の世界について語ってもらった。

周辺国との関係が重要な「日中関係」

 ――21世紀はアジアの世紀だと言われますが、とくに日中関係は重要です。

 小原 国際政治の文脈では「日中関係」はバイラテラル(2国間)な関係だけで成立しているわけではないということが重要です。「日中関係」には、両国だけが当事者である「二国間問題」のほかに、さまざまなプレイヤーを巻き込む「国際問題」が存在します。

 たとえば、尖閣諸島問題には、日米安全保障条約の適用という米国の政策が大きく関係しているように、「二国間問題」にさせ日中両国以外の国家の存在が影響することもあるため、「国際問題」はさらに複雑になり、多元的・多角的な分析が必要です。

 日中両国を取り囲む東アジア地域でいえば、韓国、北朝鮮、台湾、ASEAN諸国など、さらに域外の主要国として、米国はもちろん、ロシア、インド、オーストラリアなどとの関係およびこれらの国々がつくり出す相互関係を俯瞰しながら、そのなかで「日中関係をどう位置付け、管理していくか」を戦略的に検討する必要があります。

 たとえば、昔からよくいわれる大切な関係の1つは、「日米中三角関係」です。「米国と中国との関係の先行き」は、「日中関係」に跳ね返ってきます。近年、日中関係が改善してきた大きな理由の1つとして、「米中関係の悪化」が挙げられます。

小原 雅博 氏

 中国は、米国との関係が悪くなるなかで、日本との関係を改善しておく必要性を感じ、日本に「秋波」を送ってきたといえるでしょう。このような多角的な国家関係のダイナミズムを考えずに、日中関係のみを取り出して議論するのは適切ではないと考えています。

 そう考えると、「米中の狭間」にいる日本にとって、米中以外の国との関係が戦略的に重要になってきます。たとえば、インドとの関係、オーストラリアとの関係、もちろん韓国との関係も重要ですし、さらにいえば、ヨーロッパとの関係を日本がいかに外交戦略に活かしていくか、ということが、日本が日中関係を主導するうえで重要です。こうした地球規模の外交関係を充実させるほど、「日中関係」における日本の中国に対する影響力や発言力も大きくなるのです。

 その典型が「TPP11」です。アメリカを除く11カ国が中国に対して連携を取り、国際秩序を守るという外交戦略であり、「能動的外交イニシアティブ」ともいえます。その中心に、アメリカの同盟国であり世界第3位の経済大国である日本がいることがとても重要なのです。同様に、日本とヨーロッパとの経済連携協定や、日本とインドとの経済連携協定にも同じような役割が期待されています。

人間に焦点を充てる国際政治のリアリズム

 小原 私は大学のゼミなどで、学生に対して、外交を学ぶには「歴史」を学ぶことが大切だと教えています。歴史は難しい理論というより、1つの人間ドラマです。新型コロナの広がりで、家にいる時間が多くなった方も多いと思いますがぜひこの機会に歴史を勉強してほしいと感じます。

 人間は、どんなに科学技術が進んでも、その欲望や感情といった人間的本質は変わらないものです。国際政治のリアリズム(現実主義)の世界では、人間の性格(性善説と性悪説)を基本的な要因として分析します。つまり、金正恩委員長、習近平国家主席、トランプ大統領をどう見るかということは、とても大切なのです。

 リアリズムの世界では、国家を擬人化し、その行動を分析します。国家という存在が動くわけではありませんが、国家には個人にしろ、集団にしろ、必ず人間の政治的行動があります。国際政治における「権力政治」とは、こうした人間同士の力を追求する動きのため、歴史を学ぶ必要があるのです。

(了)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
小原雅博
(こはら・まさひろ)
 1980年東京大学文学部卒業、1980年外務省入省。1983年カリフォルニア大学バークレー校修士号取得(アジア学)、2005年立命館大学にて博士号取得(国際関係学:論文博士)。アジア大洋州局参事官や同局審議官、在シドニー総領事、在上海総領事を歴任し、2015年より現職。立命館アジア太平洋大学客員教授、復旦大学(中国・上海)客員教授も務める。
 著書に『日本の国益』(講談社)、『東アジア共同体―強大化する中国と日本の戦略』、『国益と外交』(以上、日本経済新聞社)、『「境界国家」論―日本は国家存亡の危機を乗り越えられるか?』(時事通信社)、『チャイナ・ジレンマ』、『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本走向何方』(中信出版社)、『日本的選択』(上海人民出版社)ほか多数。
 10MTVオピニオンにて「大人のための教養講座」を配信中。

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