2022年06月26日( 日 )
by データ・マックス

介護大手ニチイ学館の創業家の相続税対策~自社買収(MBO)による株式非公開(中)

 「大きすぎる富は災いを生む」というが、その最たるものは遺産相続だろう。その遺産が現預金や不動産であれば、不満の声が上がることはあっても、最終的にはすべての関係者にそれなりの分け前が入る。だが、遺産が会社の株であれば、事業継承と絡むため、一筋縄ではいかない問題を招きかねない。なによりも、払わなければならない相続税をどうやって捻出するか、と頭を悩ますものである。

業績好調のニチイ学館を非公開化する苦しい弁明

 ニチイ学館の森社長は株式非公開化に踏み切った理由について、「現在進めている事業の構造改革の取り組みは、中長期的に見ると大きく成長することが見込まれるが、それらの施策が早期に当社のグループ利益に貢献するとは考えにくい。株式上場を維持したままでこれらの施策を実施すれば、株主に対してマイナスの影響をおよぼす可能性も否定できない。そこで当社の株主を公開買付者のみとし、当社従業員が一丸となって事業構造改革の実行などに取り組むことが最善であるという考えに至った」と述べている。

 しかし、この言葉を額面通り受け取る向きは皆無だろう。というのは、ニチイ学館の業績が悪化していたわけではないからだ。

 ニチイ学館の2020年3月期の連結決算は、売上高は前期比3.5%増の2,979億円、営業利益は同21.2%増の121億円、純利益は同33.6%減の40億円。年間配当は同5円増配の40億円だ。

 新規事業であるヘルスケア部門、教育部門、セラピー部門、グローバル部門はいずれも営業赤字とはいえ、主力事業は好調だ。介護部門は売上高1,537億円、営業利益は158億円。介護事業の売上高は、SOMPOケア、ベネッセグループを抑えて業界トップだ。創業事業である医療関連部門の売上高は1,143億円、営業利益は97億円だ。

 増収増益のニチイ学館の株式を非上場にする必要はどこにもない。

相続税対策としてのMBOのシナリオ

 市場関係者が一致して指摘するのが「相続税対策」である。大株主は20年3月末時点では、19年3月末と比べて大きく変わった。筆頭株主は一族の資産管理会社・明和の24.95%。17.09%を保有していた寺田明彦氏の名前は消えて、2位は長男の寺田大輔氏の7.19%、3位が次男の寺田剛氏の5.48%、5位が親族の寺田啓介氏の4.19%に代わった。

 相続税は莫大であり、相続した株式を市場で売却・換金すれば株価は暴落する。相続税対策としては、創業者が保有する株を会社が買い上げて自社株とする方法があるが、創業家が大株主でなくなり、経営から外れることは避けたいということから、別の手段が必要だった。

 解決方法を検討するため、ニチイ学館の社外取締役であるベイン日本代表の杉本勇次氏に相談した結果、MBOのスキームが考案された。
 このスキームであれば、創業一族は保有株式を現金化することができる。相続税を払った後に、残った半分程度の資産を受け皿会社に出資することで、創業家の影響力を残すことができる。明彦氏の妻の邦子氏は資産管理会社の明和を受け皿会社に譲渡するため、株式売却益に対する税金もかからない。まさに「創業家ファースト」のスキームだ。

 新型コロナウイルス感染拡大で、株式市場が大混乱に陥っている最中に、TOBをスタートさせたのは、被相続人の死去から10カ月以内、つまり20年7月までに相続税を納付する義務が発生するからであり、すべては相続税の支払うためだ。

(つづく)

【森村和男】

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