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2020年09月15日 07:00

評伝・ハウステンボスの創業者、神近義邦氏の死去~大物経済人を虜にする「必殺ジジ殺し」の達人(中)

 長崎県佐世保市の大型リゾート施設「ハウステンボス」創業者の神近義邦(かみちか・よしくに)氏が9月5日、がんのため佐世保市の病院で死去した。享年78歳。
 起業家の世界には「必殺ジジ殺し」という言葉がある。若い起業家で大成できる人は、業界の重鎮と呼ばれる大物経済人から可愛がられるという意味だ。神近氏も「必殺ジジ殺し」の達人だ。大物経済人を虜にする幅広い人脈を駆使して、ハウステンボスを立ち上げた。神近氏の経済人脈を振り返ってみよう。

ミネベアの高橋高見のもとで経営者としての修業を積む

 一條の再建で見せた非凡な才に驚いた高橋高見は、神近をミネベアグループの親会社である啓愛社の役員に招き、グループの不動産管理を担当させた。こうして神近は高橋のもとで経営者としての修業を積む。

 高橋は、日本人離れしたタフな怪物経営者である。1959年、30歳のとき、父が経営する日本ミネベアに入社する。当時は埼玉県川口市の町工場にすぎなかった。ここから、毎日4時間しか眠らず、仕事オンリーで「企業を成長させるのが生きがい」という企業家人生を始める。

 66年に社長になった高橋は、ベアリングとその周辺部品のメーカーを中心に猛烈な勢いで企業を買収していった。70年代の主要な案件だけで10社を数える。

 高橋は軽井沢に、贅を尽くした超豪華山荘の迎賓館を建てた。建築費だけで25億円をかけた。海外の証券や投資銀行の機関投資家をもてなすためだ。大事な投資家を招待するとき、軽井沢の山荘をひんぱんに活用する。東京・木場のヘリポートから自家用ヘリコプターでわずか40分。投資家から資金を調達して、買収の軍資金とした。高橋は「M&A王」といわれた。

 高橋はいくつかの小説のモデルとなった。クールでドライ、非情な冷酷漢として描かれている。しかし、高橋には、人を見て、人を育てる能力があった。高橋に見出された神近は、困難な仕事を一手に任されることになる。

 神近はここで最大の転機を迎える。不動産部長として79年に初めてオランダを訪れたときだ。オランダの湾岸は海の生態系を壊さぬように石でつくられ、石の岸壁が海抜の低い国土を荒波から守っている。生態系を生かした国づくりを目にした神近は「感動で体が震えた」と語っている。古里の大村湾に、生態系を生かした「現代の出島」をつくることを思い立つのはこの時だ。帰国する飛行機のなかで、百万坪の土地に1,000億円の資金を投入する構想をまとめた。

長崎自動車の松田皜一氏の個人保証で資金を調達 「長崎オランダ村」をつくる

 それから2年。室谷秀と高橋高見の激励を受け、神近は長崎に戻ってきた。「現代の出島」の構想の実現に向け、地元財界に協力を呼びかけた。だが、彼らの反応は冷ややかで「大ボラ吹き」といわれた。

 この計画に理解を示したのが長崎自動車社長の松田皜一。神近が一條の専務のときから、目をかけていた。松田の曽祖父は地元・十八銀行の創始者で、松田自身も地元財界の重鎮だった。松田の個人保証で2億5,000万円の立ち上げ資金を手にした。

 神近は83年、大村湾に面した入り江に「長崎オランダ村」をオープンした。17世紀最大の木造帆船プリンス・ウィレム号を復元し、オランダ村の目玉にしたが、風車と土産品店があるだけのささやかな船出だった。

 その「大ボラ吹き」が「大化け」するのは、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)の「中興の祖」といわれる中山素平との出会いである。

長崎県出身の大物財界人、中山素平と今里廣記

 1961年、55歳のときに興銀頭取に就任した中山素平は、「財界の鞍馬天狗」と渾名され、大型合併の立て役者として戦後経済史の1ページを飾ることになる。日本経済の行く末を案じた中山は、自ら率先して旗振り役となって産業再編を推進した。70年には八幡製鐵と富士製鐵と合併させ、新日本製鐵(現・日本製鉄)が誕生した。

 この合併の陰の中心人物は中山素平と日本精工会長の今里廣記だ。富士製鐵の永野重雄は中山を参謀役にした。今里は政財界の根回しをやり、水面下で工作を進めた。
 今里は財界のまとめ役として「財界の官房長官」の異名をとる。同郷ということもあり、ふたりはウマがあったようで、「知恵の中山、行動の今里」と称された。

 中山素平と今里廣記は明治人らしく、郷土の発展に力を注いだ。中山自身は東京生まれだが、実家は長崎県島原半島で島原銀行頭取の家系。島原市に実家跡が残っており、清水が湧き出る池があることから「水屋敷」と呼ばれている。今里の実家は、佐世保市の隣町、波佐見町のつくり酒屋・今里酒造である。

 78年の佐世保重工業救済劇の立て役者は、首相の福田赳夫を引っ張り出した日本商工会議所会頭の永野重雄であり、永野は佐世保市から名誉市民の称号を贈られた。救済劇のシナリオを描いた「影の功労者」は中山素平と今里廣記のコンビだった。

 その故・今里廣記の墓まいりに当時、興銀顧問となっていた中山素平が訪れた。そのとき、長崎自動車の松田皜一が神近を引き合わせた。松田は今里の甥にあたる。これがハウステンボス誕生のきっかけとなる。

(つづく)

【森村 和男】

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