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2020年09月16日 07:00

評伝・ハウステンボスの創業者、神近義邦氏の死去~大物経済人を虜にする「必殺ジジ殺し」の達人(後)

 長崎県佐世保市の大型リゾート施設「ハウステンボス」創業者の神近義邦(かみちか・よしくに)氏が9月5日、がんのため佐世保市の病院で死去した。享年78歳。
 起業家の世界には「必殺ジジ殺し」という言葉がある。若い起業家で大成できる人は、業界の重鎮と呼ばれる大物経済人から可愛がられるという意味だ。神近氏も「必殺ジジ殺し」の達人だ。大物経済人を虜にする幅広い人脈を駆使して、ハウステンボスを立ち上げた。神近氏の経済人脈を振り返ってみよう。

中山素平がハウステンボスへの融資をまとめた

 神近は興銀から資金を引き出したかったが、中山は「ボクは卒業した人間だから、おカネの世話はできないよ」と断った。だが、神近の突破力を見込んだようだ。中山は、神近のために一役買って出た。東京に戻った中山は往年の“財界の鞍馬天狗”さながらの行動力と調整力を発揮する。

 中山は、名の通った財界人を集めて神近にハウステンボス構想を説明させた。財界人は日本の西のはずれに何千億円も投資するのはリスクが大き過ぎると反対した。そうした反対は折り込み済みの中山は、「専門家の意見を聞いてみたい」と三井不動産相談役の江戸英雄を指名した。東京ディズニーランドを大成功させた功労者だ。

 江戸は「アジアの国際観光拠点をつくるなら、思い切って投資すべきだ」と発言した。これで流れが変わった。中山素平、江戸英雄という財界巨頭が応援団についたことで、大企業が続々と出資を決めた。バブル景気も手伝い、みるみる資金が集まった。

 中山が「後見人」となり、88年にハウステンボス(HTB)が設立された。4年後の92年3月、大村湾を望む東京ディズニーランド(TDL)の約2倍の土地に、生態系を生かしオランダの街並みを再現したハウステンボスがオープンした。
 中山にとって、ハウステンボスは興銀の再生の実験場だった。

 “産業金融の雄”と呼ばれた興銀は、電力・化学、鉄鋼などの基幹産業に融資してきた。だが、80年代からの製造業が、株式市場から直接資金を調達するようになり、借り手がいなくなった。それで、興銀、長銀(長期信用銀行=現・新生銀行)、日債銀(日本債券信用銀行=現・あおぞら銀行)の長期信用銀行3行は不動産融資にのめり込んでいくことになる。
 ハウステンボスは興銀がレジャー施設に本格的に融資する第1号であり、ハウステンボスが成功すれば、レジャー産業の新しい融資先を開拓できるという読みがあった。

バブル崩壊で、高級別荘地が売れず、初期投資が回収できなかった

 ハウステンボスは、オープンがバブル崩壊と重なり、歯車が完全に狂った。
 東京ディズニーランドは隣接地を住宅用地として売却した代金で初期投資を回収した。だが、ハウステンボスは将来的に人口3万人が定住する都市をつくる構想のもと、企業の保養施設として当て込んで建設した高級別荘地がバブル崩壊のため6割も売れ残ったことが後々まで響いた。

 ハウステンボスは初期投資に2,250億円をつぎ込んでおり、東京ディズニーランドの1,800億円を大きく上回る。これがまるまる借金として残った。

 2000年3月、ハウステンボスは興銀に202億円の債権放棄を要請し、創業社長の神近は引責辞任した。その3年後の2003年3月、ハウステンボスは会社更生法を申請した。負債額2,289億円の大型倒産であった。

ハウステンボスはテーマパークではなかった

 ハウステンボスは地方の夢想家と中央の大物財界人の出会いから生まれた。創業者の神近義邦と中山素平・興銀元頭取である。ハウステンボスは当初から、神近は対外的な広告塔で、経営の実権を握っていたのは興銀からの出向者たちだ。

 だが、興銀は電力や鉄鋼の設備投資に対する需給予測のノウハウをもっていたが、レジャー施設のようないわば「水商売」については素人同然であった。神近も同様だ。

 ハウステンボスにはテーマパークというコンセプトがなかったことが、ビジネスとして成り立たなかった最大の原因である。神近が提唱したのは「エコロジー(生態系や環境の保全)とエコノミー(経済)の共存」という概念。目指したのは、あくまでも生態系を生かした石でつくるまちづくりであって、4、5年で設備を更新して若年層のリピーター比率を高めていくテーマパークではなかった。

 「観光立国」のモデルケースとすべく、ハウステンボスの「後見人」となった中山素平は、後年、神近にこう語ったという。
「神近くん、銀行も小粒になったよ。将来、日本のためになるような企業でも、現在の業績が良くなければ見放してしまう。興銀も例外ではない。経営者は頭を切り替えないと生き残れないよ」

 経済大国ニッポンの再生に大物財界人が旗振りする時代では、もはやなくなった。
 神近義邦の「千年の時を刻む街」をつくるという壮大な夢こそ潰えたが、長崎県観光の基幹産業化の礎を築いた神近氏の功績は大きい。

(了)

【森村 和男】

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