2024年04月25日( 木 )

豊洲市場の耐震偽装裁判、判決日は9月17日に決定

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 仲卸業者5社が原告となり、東京都に豊洲市場の使用禁止、建築基準法違反の是正を求めていた裁判は、実質的な審理に入ることなく、今年5月19日に判決言い渡しの予定となっていたが、新型コロナウイルスの影響による裁判所の休業により延期になっていた。先日、裁判が再開され、判決は9月17日の東京地裁419号法廷で言い渡されることが決定した。
 この裁判では、1回目の口頭弁論において、清水裁判長が突然に結審しようとしたため、原告である仲卸業者側が裁判官の忌避を申し立てた。裁判は申し立ての審査のために一時的に停止し、申し立てが却下された後に裁判が再開した。再開した裁判においても、清水裁判長は、実質的な審理を行うことなく結審し、当初の5月の判決言い渡しを決定した経緯がある。
 豊洲市場裁判の判決言い渡しを前に、同裁判の原告から技術面での相談を受けていた構造設計一級建築士・仲盛昭二氏に意見を聞いた。

 ――東京地裁の清水裁判長は、なぜ結審・判決を急いだのでしょうか?

 仲盛 それは、東京都が「1階柱脚の鉄量が規定量の59%しかないこと」を認めてしまったからです。原告を支援している団体が配布したビラにも、東京都が鉄量不足を認めたことが記載されています。

 東京都としては、(株)日建設計の耐震偽装を絶対に認めるわけにはいかないために、裁判に至る以前、私が東京都に質問状を送付した際にも、日建設計の擁護に終始しており、耐震偽装の隠蔽に必死でした。しかし、裁判の書面において、原告が示している「1階柱脚の鉄量が44%不足」という主張に対し、東京都は書面で「1階柱脚の鉄量不足は41%」と反論したことにより、1階柱脚の鉄量不足を認めてしまったのです。

 ――被告である東京都自らが「鉄量が41%不足」と認めてしまったのであれば、判断を下す裁判所にとっては決定的な事実になりますね。

 仲盛 ところが、裁判所は、被告である東京都に不利な状況で審理を進めると、東京都に不利な判決を書かざるを得なくなるため、実質的な審理に入ることなく突然に結審するという暴挙に出たのです。

東京都内で配布されたビラ

 ――原告は裁判官忌避を申し出ましたが、却下されたそうですね。

 仲盛 裁判官忌避の申し立てについて判断を下すのは上級裁判所であるため、余程のことがない限り、申し立ては却下されます。原告としては、裁判所に対して「東京都にあまりに偏った裁判進行をするな!」という強いアピールにはなったと考えています。

 ――原告側の強硬な姿勢にもかかわらず、東京地裁の清水裁判長は、審理再開後の口頭弁論において、突然に結審をして判決日を決めてしまいました。

 仲盛 豊洲市場の耐震偽装は1階柱脚の鉄量だけではなく、保有水平耐力計算に用いる係数である構造特性係数(Ds)が偽装されていました。実際の耐震強度よりも耐震強度が高いかのように偽装されていたのです。適正なDsにより計算を行った場合、東京都が定めた公設市場の安全基準を大きく下回り、耐震強度不足となっています。構造特性係数Dsの偽装という耐震偽装の問題に審理が進むと、東京都は反論できなくなるため、審理をしないままに結審せざるを得なかったのでしょう。

 ――豊洲市場の偽装された設計を行ったのは、国内最大手の設計事務所である日建設計です。日建設計は東京スカイツリーなど著名な建築物の設計を手がけており、技術力は高いと考えられますが・・・。

 仲盛 当然のことながら、国内最大手の設計事務所である日建設計は高い技術力を有しているはずです。しかし、すべての物件において高い技術力が発揮されているわけではないことが、豊洲市場の耐震偽装問題により判明してしまいました。私は豊洲市場水産仲卸売場棟の構造計算書の内容を見ましたが、初心者がつくったとしか考えられないような構造計算書でした。

 ――東京都が日建設計を、東京地裁が東京都を擁護する理由は何ですか。

 仲盛 日建設計は多数の公共建築物の設計を行っています。東京の都心を歩くと、至るところで日建設計の名前が掲げられた建設現場を見かけます。豊洲市場における日建設計の耐震偽装が明確になると、日建設計が関与したすべての公共建築物について耐震偽装の有無を調査しなければならなくなるため、大変な事態となります。東京地裁としても、社会の混乱や東京都が窮地に追い込まれる事態を避けようとしているために、今回のように東京都に忖度した裁判進行となったのはないかと考えています。

 ――三権分立が完全に崩壊していますね。

 仲盛 多くの行政裁判において、原告である民間人や企業は敗訴してきました。行政の誤りを認めてしまうと、社会におよぼす影響が大きいため、社会が混乱するかもしれません。そのため、裁判所は社会秩序が乱れないことを最優先にしているのでしょう。憲法の定める三権分立に反したあり得ないことですが、これが日本の裁判の現実です。

 ――17日の判決は、どのような判決になると考えられますか。

 仲盛 東京地裁の判決は、原告の訴えを認めることなく、東京都の勝訴となると考えています。おそらく原告は控訴すると考えられますが、東京高裁も東京都に忖度するのではないでしょうか。そうなると、裁判は最高裁に場を移すことになります。最高裁には、三権の1つを担う司法の最高機関としての誇りをもって審理を尽くしていただきたいと考えています。

【桑野 健介】

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