2024年04月23日( 火 )

BIS第170回例会~ワシントンDC、ローマを結ぶオンライン開催(8)

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 8月30日(日)の午後1時30分~5時まで、日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎会長・名古屋市立大学特任教授)第170回例会がZOOMを用いてオンラインで開催された。ZOOMによる開催は、29年の歴史を誇るBISで初めての試みだ。
 今回は「新型コロナ後の世界」をテーマとして、医学や経済学、社会学など幅広い分野の発表があった。当日は東京だけでなく、ワシントンDC、ローマ、仙台、大阪、福岡などから50名を超える有識者が参加した。

日本からの発信に感じる視野の狭さ

 井出氏は、新型コロナウイルス感染拡大で世界が求められていることは(1)感染経路の究明、(2)感染防止のための諸国民の努力、(3)専門家、医療関係者への期待・要請(ウィルスの解明、治療薬・ワクチンの開発)、(4)医療体制の整備、(5)二次感染の防止を含めた、発展途上国への拡大を防ぐさまざまな国際協力であり、いずれも地球市民として国際的に協力して解決するべきテーマであると語った。

 米国の対応は、トランプ大統領の発言も含めて「この国は本当に民主主義国家なのか」と言われるほどに民主主義の弱点を露呈した。一方で欧州の政治家の発言は、ドイツのメルケル首相に代表されるように、人類の共存、相互依存に触れるなど視座の高さを示している。

 初動でつまずいた中国の習近平政権の世界に対する発信力も注目されている。井出氏は、「日本は幸いにしてほかのOECD諸国に比べると深刻な被害状況ではないが、日本からの発信には視野の狭さを感じる」と語った。

情報化社会の発展に求められる新ルール

 また、井出氏はICT(情報通信技術)とAIに代表される情報革命の進展と、新型コロナ後の世界について言及した。情報化社会は新型コロナ騒動のなかでも、その度合いを強めた。GAFAなどが情報を独占し、ビッグデータやAIを用いた情報分析、伝達のさらなる革新が起こり、働き方の変化、Eコマースの普及など、生活様式にも変化がもたらされた。都会の人口集中問題の解決、地方の疲弊の是正、地域振興に向けて、新たな手掛かりが与えられることが期待されている。

 井出氏はこの動きに対して、「『情報の独占は許さない』という考えに立脚した新しいルールをつくる努力が求められるべきだ」と語る。また、「物理的距離の制約、組織規模の大小による不利益を克服し、人々に相互依存関係を再認識させるなど、市場経済システムの永続性をいかにして高めるかということが大きな問題となり、現代人の知恵が試されている」と続けた。

人間の相対性、相互依存性を述べた東洋思想

 井出氏は、近代の到来は自然を克服するという原理の欧米思想によりもたらされた。しかし、この機会に人間の相対性、相互依存性を述べた東洋思想を振り返り、今後の対応に資すべきである、と提起した。

 求められるべき東洋思想の例として、前漢の大儒・劉高の編集による『説苑』に示される国を超える思想、『論語』に現れたコンプライアンス観、人間と自然界との調和を示している老荘思想、二宮尊徳氏に現れた持続的発展思想、マハトマ・ガンジー氏や宮沢賢治氏の思想などを披露した。

 最後に、井出氏はE・H・カー氏の「歴史とは現在と過去との絶えざる対話である」になぞらえ、「歴史は現在と過去との絶えざる対話であり、未来への展望である」と語った。世界は今、大きな転換期にあり、未来への新しいパラダイムの形成、「第三の開国」が求められている。

(つづく)

【金木 亮憲】

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