2024年04月29日( 月 )

韓国の家計負債に危険信号(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 国際決済銀行(BIS)の発表によると、韓国の第2四半期の家計負債比率は対GDP比で96%であることが明らかになった。家計負債額は、1,637兆ウォンである。オーストラリア、カナダ、オランダなど、韓国より家計負債比率(対GDP比)の高い国はいくつかあるが、専門家は韓国の家計負債比率が急激に高まっていることに対して、警鐘を鳴らしている。

 最近の投資対象は、不動産から株式へと広がっている。コロナ禍で経済が低迷し、実ビジネスでは苦境にある一方、今年の上半期に銀行からお金を借りて株式に投資をした人は、30%以上の収益を上げた人もいる。

 韓国には「ツケなら、牛一頭を丸ごと食べるのも良いことだ」ということわざがある。さらに、以前の韓国では銀行の金利がとても高かったため、今のような低金利になると、「返済は何とかなるだろう」という心理も働く。

 1997年には韓国の金利は20%で、5~6年前まで金利は6~7%であった。ところが、現在の不動産担保ローンの金利は2.5%前後である。以前と比べると、金利負担をほとんど感じない水準であるため、銀行の家計への融資は今年の上半期のみで合計60兆ウォンに上るという。

 韓国政府は、家計負債をこれ以上増加させないために、不動産に規制をかける政策をいつくか発表している。しかし、その効き目はまだ出ておらず、不動産価格は以前より値上がりし、所得格差もさらに広がっている。韓国政府は大変厳しいかじ取りを迫られているところだ。

 さらに、米国中央銀行の利上げにより、韓国も金利を上げざるを得ない可能性があるなど、今後の外部環境の変化が懸念される。企業の場合には、業績の良い企業と悪い企業を選別して融資先を調整できるが、家計の場合には、その数が多すぎて融資先の調整も行いにくい。そのため、家計負債に問題が発生すると、家計にお金を貸した銀行が負担を背負い、ダメージを受けかねない。

 加えて、自営業者が多いという韓国の特殊な事情もある影響している。店を開業する際の銀行からの借入金は合計680兆ウォンに上るという。この金額は家計負債には含まれていないが、コロナショックでもっとも甚大なダメージを受けているのは自営業者であり、店をたたむ業者が相次いでいる。現在の延滞率は1%台で、まだ危険信号は灯っていないが、自営業者の貸し倒れが家計負債の貸し倒れの起爆剤となる可能性は十分にある。

 家計のみではない。企業負債もアジア通貨危機の水準に戻っているといわれており、安泰ではない。韓国の非金融部門の負債比率は、対GDP比で104.6%だという。アジア金融危機の際の企業の負債比率(対GDP比)は107%であった。大手企業は資金的に余裕があるが、中小企業を中心に負債が増えている。

 このように家計と企業は負債を抱えていて、支出を増やせる状況ではない。今後は韓国政府が支出を増やし、景気を浮揚させる必要があるため、今年の国債発行額は90兆ウォンに上っている。その結果、韓国政府の抱える負債も急激に増えている。家計負債をきっかにして、韓国はもう一度経済危機に陥るのではないかと多くの人が警戒している。

(了)

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