【流域治水を考える】流域治水への転換とは何を意味するのか?(前)
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2020年11月20日 15:48

【流域治水を考える】流域治水への転換とは何を意味するのか?(前)

リベンジとしての流域治水

 国土交通省主導によりスタートした流域治水プロジェクト。河川管理者だけでなく、流域の企業、住民を含めた総動員体制による流域治水への転換を目指す国家的プロジェクトだ。流域治水プロジェクトの中身は、大きく分けて河川対策、流域対策、ソフト対策の3つから成る。

 河川対策は、ダムや堤防、河道掘削といった河川域でのハード整備などの対策を意味する。流域対策は、水田などの遊水池化、民間ビルや住宅などへの雨水貯留機能の設置、浸水リスクのあるエリアでの住宅開発規制、高台移転といった集水域、氾濫域での対策を指す。ソフト対策は、土地の水害リスク情報のオープン化、浸水リスクなどに関するリアルタイム情報の提供といった、避難体制強化に関する対策になる。

 流域全体で治水を考える政策自体は、昔から存在していた。比較的最近でも、国土交通省は2000年初頭に「総合治水対策」と銘打って、いわゆる“ゲリラ豪雨”に対応すべく、河川改修、流域対策、被害軽減対策からなる政策体系を取りまとめている。

 流域治水の3つの対策の中身は、総合治水の対策としてすでに打ち出されている施策が多くを占めている。逆にいえば、流域治水として、初めて打ち出された画期的な施策というものは、とくにない。流域治水と総合治水は、ほぼ同じ政策だといってよい。

 同じような政策にもかかわらず、なぜ看板を変えてまで再び実行するのか――。端的にいえば、総合治水が政策として不発に終わってしまったからだ。総合治水対策と銘打ったものの、実行に移す際、他の省庁や自治体などとの調整がもたつくことが少なくなく、当初の目論見通りに対策を講じることができなかった実情がある。そもそも、国土交通省が直轄で実施することにしていた河川改修などの治水対策でさえ、予算不足などが原因で、なかなか進展しなかったという経緯がある。

 流域治水プロジェクトがかつての総合治水対策と大きく異なるのは、関係省庁や自治体などとしっかり連携したうえで、これを実行に移そうとしている点だ。流域治水に関する資料を見ると、「転換」や「総力戦」といった文言が見られるが、その意味することは、関係省庁との連携に集約されると考えられる。

 流域治水プロジェクトは、そういった過去の政策失敗の反省の上に立ったリベンジ政策だといえる。同プロジェクトのスタートに際し、国土交通省が山地や水田などを所管する農林水産省とタッグを組んだのも、そのためだろう。まずは関係省庁と話をつけておかないと、各所で“行政の壁”に阻まれてしまうからだ。

 プロジェクトは、水系ごとに設置された流域治水協議会が、今年度中をメドに取りまとめを行うことになっている。協議会は全国109ある一級河川水系すべてに118設置されている。協議会事務局は国土交通省の出先機関などが担当。メンバーには、都道府県、流域市町村の首長のほか、農林水産省など関係省庁の出先機関が加わる。有識者が加わる場合もあるが、基本的には行政関係者のみで、民間企業や住民などの参加は予定していないようだ。うがった見方になるが、流域治水実現のため、先に指摘したように、まずは行政の壁を乗り越えるのが先決だと考えれば、メンバーを行政で固めたのもうなずける。

インフラ投資拡大は限定的か

 流域治水に関係する省庁はその後、16省庁に広がっている。今年10月には、関係省庁の実務者会議が開かれた。構成省庁は次の通り。

国土交通省(議長)、内閣府、金融庁、総務省、消防庁、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、林野庁、水産庁、経済産業省、資源エネルギー庁、中小企業庁、気象庁、環境省

 ここにきて、なぜこれだけの関係省庁が流域治水に協力的になったのか、という素朴な疑問が湧く。その理由は定かではないが、「縦割り行政打破」を掲げる菅義偉政権が誕生したことが影響していると思われる。菅総理は官房長官のころから、農林水産省や経済産業省などが所管する利水ダムの洪水調整活用に積極的だったことも無関係ではないだろう。

 財務省がメンバーに入っているのも、気になる点だ。関係者によれば、財務省は「総論としては流域治水推進の立場」だそうだ。財務省が実務者会議に提出した資料を見ると、「水害リスクに基づく開発規制の導入を検討すべき」「地方公共団体。関係省庁が垣根を越えて一元的に被害軽減を推進する体制を構築すべき」と、たしかに前向きな姿勢がうかがえる文言が並んでいる。

 では、流域治水に必要な予算確保にも前向きなのかと思いきや、「社会資本整備総合交付金(7,277億円)と防災・安全交付金(7,847億円)は、地方公共団体の創意工夫に基づきさまざまな事業を組み合わせることが期待されているものの、大半は単一事業で計画が構成されており、アウトカム目標の設定も徹底されていない」と指摘したうえで、「PDCAサイクルを強化したうえで、治水対策とまちづくりを組み合わせたかたちで効果的に流域治水を進めるため、関係省庁の事業と連携しつつこれら交付金を有効に活用すべき」としていた。

 要するに、「既存の交付金をうまく活用せよ」というにとどまっているわけで、予算規模の拡大への期待に対してしっかりクギを刺している。やっぱり、いつもの財務省だったというオチになる。流域治水が政府を挙げた取り組みだとしても、インフラ投資の拡大は限定的なものにとどまる可能性が高い。

(つづく)

【大石 恭正】

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