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2021年01月17日 07:00

「人間の経済」を基軸に、環境問題を考察する!(6)

京都大学名誉教授 松下 和夫 氏

 2020年は、新型コロナ騒動一色に塗りつぶされた1年であったと言っても過言ではない。「地球という有限の閉鎖体系のなかでは、無限の経済成長は不可能である」と経済学者のケネス・E・ボールディング(当時のアメリカ経済学会会長)が警告したが、ほとんどの国の政府や指導者は「経済成長がすべての問題を解決する」との神話を信奉してきた。
 コロナ禍が起こった今こそ、人類は考えを改めることができるのだろうか。京都大学名誉教授・(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェローの松下和夫氏に聞いた。

気候変動は人為的に引き起こされた国際的な人権問題

 ――最近、「気候正義」についてよく耳にします。

 松下 気候正義とは、気候変動は人為的に引き起こされた国際的な人権問題であり、この不公正な事態を正して地球温暖化を防止しなければならないとする考え方です。「気候の公平性」とも呼ばれます。

 気候変動の被害は、コロナ危機の被害より、甚大かつ長期におよんでいます。石油や石炭などの化石燃料の大量消費によって気候変動を引き起こした先進国やこれまでの世代が、自らの責任で地球温暖化対策に取り組むことで、化石燃料をあまり使ってこなかった途上国や子孫の世代が気候変動によって受ける被害を食い止めることを求めています。

 気候正義は、スウェーデンの若き環境活動家、グレタ・トゥーンベリ氏による2019年9月の「国連気候サミット」の演説によって広く知られるようになりました。しかし、この考えは本来、地球温暖化対策の国際ルールである「パリ協定」(15年12月採択)の基本的な概念であり、10年代以降、気候正義を求める社会運動は世界各地で活発化していました。

理想と思える社会のビジョンをまずは描く

 ――新型コロナ禍後を生きる読者にエールをいただけますか。

 松下 現在も、依然として日本・世界を席巻している新型コロウイルスは多くの人の生命と健康を奪い続け、世界大恐慌以来ともいわれるほどの深刻な打撃を経済に与えています。

 私たちの健康と安全な生活は本来、健全な地球環境があって始めて成り立つものです。ところが、その地球環境は「気候危機」や森林減少によって破壊され、生態系崩壊の勢いは経済活動のグローバル化により加速しています。冒頭に申し上げましたが、未知のウイルスの発生やまん延など、感染症リスクの高まりの背景には、生態系の破壊と人と自然のかかわり方の変化があると感じています。

 新型コロナが収束したとしても、現在の世界経済の在り方に根本原因があるため、新しい感染症が次々と生じる可能性さえあります。パンデミック(感染症の世界的大流行)が起こりにくく、気候変動の危機を回避できる経済社会への移行が必要です。

 さて、読者、とくに若い皆さまへのエールですが、今回のコロナ禍は天の配剤と考えていただき、自分の生活(学校、会社など)をもう一度、見直してみるといいと感じます。巷では「できることから始めましょう!」という声をよく聞きます。それでも結構ですが、これはあくまでも、現在の延長線上に未来が見えるときの考え方です。

京都大学名誉教授 松下 和夫 氏
京都大学名誉教授
松下 和夫 氏

 脱炭素社会の実現という、工業国がいまだかつて到達したことのない目標の達成に向けては、社会全体をどう変えていくかという視点、すなわち50年にどのような「日本社会」を構築するかという長期のビジョンを描くことが大事です。たとえば、デジタル技術の飛躍的な発展により、人やモノ、情報の流れが格段に効率化し、人々の消費や行動パターンも「所有重視」から「機能重視」へと変わるでしょう。大量生産・大量消費・大量廃棄の経済発展モデルから脱却する社会が到来すると思われます。

 また、脱炭素社会への移行は、私たちに我慢や不便を強いるものではなく、新しい豊かさを獲得するための機会として捉えることができます。つまり、脱炭素社会の構築は、CO2削減のためだけではなく、人口減少や過疎化、情報通信技術の大幅な進展などに対応し、より良い豊かな生活を営むためのものでもあります。たとえば、コロナ禍により普及したリモートワーク、テレワークなどが一般化され、働き方がより自由で柔軟なものとなると、仕事と家庭・子育て・介護の両立がしやすい社会になるでしょう。

 今、現在の延長線上に未来は見えていません。そこで、一歩踏み込んで、自分が理想と思える社会のビジョン(将来、目指すべき社会)をまずは描いてみてはいかがでしょうか。新しい社会は、従来の規制や技術的対策だけでなく、社会構造の根本的な変革につながる社会的メカニズムや経済的インセンティブが必要だからです。その大きな目標に近づけるように、現在の生活、勉強や仕事の方法などをもう一度見直すとよいと感じます。その際には、規制の有無、組織の枠、日本や世界のスタンダード、技術レベルなどに遠慮することなくビジョンを描き、その実現に向けた道を考えることをお勧めします。

 皆さまが知恵を出して、声を挙げて行動していくことを望んでいます。若い皆さまは、確かに大変な困難に直面しており、閉塞感もあると感じます。しかし、未来の社会を自由につくっていくことができる(社会を自由に変えていくことができる)のも皆さまだからです。大きな変化の起こっている今は、新たな取り組みができるチャンスの時です。

(了)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
松下和夫氏
(まつした・かずお)
 京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェロー、国際アジア共同体学会理事長、日本GNH学会会長。
 1948年徳島県生まれ。71年東京大学経済学部卒。76年ジョンズホプキンズ大学大学院政治経済学科修了(修士)。72年環境省(旧・環境庁)入省、以後OECD環境局、国連地球サミット(UNCED)事務局(上級環境計画官)などを歴任。2001年京都大学大学院地球環境学堂教授。持続可能な発展論、環境ガバナンス論、気候変動政策・生物多様性政策・地域環境政策などを研究。
 主要著書に、『東アジア連携の道をひらく 脱炭素・エネルギー・食料』(花伝社)、『自分が変わった方がお得という考え方』(共著 中央公論社)、『地球環境学への旅』(文化科学高等研究院出版局)、『環境政策学のすすめ』(丸善)、『環境ガバナンス論』(編著 京都大学学術出版会)、『環境ガバナンス(市民、企業、自治体、政府の役割)』(岩波書店)、『環境政治入門』(平凡社)など多数。監訳にR・E・ソーニア/R・A・メガンク編『グローバル環境ガバナンス事典』(明石書店)、ロバート・ワトソン『環境と開発への提言』(東京大学出版会)、レスター・R・ブラウン『地球白書』(ワールドウォッチジャパン)など多数。

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