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2021年01月22日 14:30

政府は財政規律を凍結し積極財政を展開せよ(中)

京都大学大学院工学研究科 教授 
藤井 聡 氏

 菅政権は73兆円規模の経済政策を決定し、これに基づいて3次補正予算を実施することを発表した。1次補正、2次補正も同規模の大きな対策が図られてきたということで、これを見て、「菅政権は本気で日本のために頑張ってくれている」という印象をもった国民もおられるかもしれない。しかし、実態はその正反対だ。

コロナ禍で日本の「公助」は欧米より圧倒的に低い

菅義偉首相
菅 義偉 首相

 いずれにしても、菅総理が20年末に打ち出した大型経済対策の根幹にあるべき真水は、確定ベースで申し上げて、73兆円の4分の1程度に過ぎぬ19兆円という水準となる。

 筆者は、19兆円という金額は、日本経済を立て直すにあたってまったく十分な水準ではないと考えている。なぜなら、そもそもコロナ禍によるGDPの冷え込みは30兆円規模であることが、内閣府の統計でハッキリと示されているからだ。だから本来、可及的速やかに組むべき補正予算の水準は30兆円であらねばならない。

 しかも、この30兆円という金額は、いわゆる「第三波」が訪れる前の20年9月までの経済状況を回復させるために必要な水準だ。ところが実際は、その後の11月ごろから新型コロナウイルス感染症が拡大し、それにともなって全国の首長や政府はさまざまな自粛要請を出している。その結果、日本経済がさらに低迷していくことは必至の状況に至っている。

 したがって、本来的には40兆円や50兆円の補正予算が今まさに組まれなければならないのに、19兆円しか補正予算が組まれないというのは、驚くべきほどに圧倒的に低い水準なのである。しかも、今回の菅内閣の3次補正予算が問題なのは、その金額が少ないというだけではない。その支出項目がまさに噴飯物というべき、極めて深刻な問題を抱えたものなのである。

 そもそも、政府が補正予算を組んで支出すべきものは、コロナ不況によって所得が減って困窮している国民や事業者に対する給付金なのだ。しかし驚くべきことに、19兆円のうちそうした給付金に支給される金額はほとんどないのだ。

 たとえば英・仏では、労働者に対して賃金の「70~80%」程度を補償する給付金が「毎月」支払われたり、事業者に対しては売上が半分以下になったケースにおいては総売上の15%が毎月支払われるといった極めて手厚い給付金が支給されている。それだけの手当をしても国民経済はコロナのせいで疲弊し続けているというのが、英・仏の現状なのだが、日本はこれまで個人に対して10万円の給付金が1回配られただけ。そして、事業者に対しても100~200万円の給付金が1回ぽっきり配られただけ、なのである。付言すれば、諸外国では20カ国以上の国々で消費税減税が敢行されているが、我が国では文字通り1%の減税も行われていない。

 こうして、この3次補正予算では、欧米先進国に一歩でも二歩でも近づくような手厚い所得補償が行われることを期待していたのだが、そうした期待は完全に裏切られることになった。

菅政権は困窮化対策より大企業への誘導を優先

 以上の議論を、さらに具体的に確認してみよう。まず、政府の「真水」の支出項目は、以下のようになっている。

 1.新型コロナウイルス感染症の拡大防止策:4.5兆円
 2.ポストコロナに向けた経済構造の転換:13.4兆円
 3.国土強靭化:4.4兆円
(※この数字は、19兆円に対応するものではなく、22兆円に対応するもの。19兆円に対応する分配値は、12月中旬の本稿執筆時点で公表されていない。)

 これらのうち、コロナ対策の4.5兆円は、(その金額が十分であるか否かはさておき)時宜を得た適切な支出であるといえよう。同時に「国土強靱化」の4.4兆円も、私が今一番恐れている自然災害が導く感染症爆発という最悪の事態を回避するうえでも重要である。さらに全国各地で事業が展開でき、各地の地方経済を刺激可能であることから、同じく適切な支出だということができる。

 しかし、これらよりも格段に大きい、3倍程度もの巨額の資金が投入される「ポストコロナに向けた経済構造の転換」は、今このタイミングで必要なものとは到底思えない項目が散見される。

 まず、今はまだ「Onコロナ」の状況なのに、それをそっちのけで、「Afterコロナ」に巨額のカネを付けるという発想それ自身が、困窮し続ける国民の暮らしの実態からかけ離れた発想だと言うことができよう。もちろんなかには、「就職氷河期世代への支援策」や「地域公共交通活性化・継続支援」、あるいは、「ひとり親世帯臨時特別給付金」など、個人や法人に対する直接的な経済支援策も一部において見られるものの、それは全体のごく一部でしかない。この13.4兆円の大半は、デジタル改革、グリーン社会の実現、イノベーションの促進、サプライチェーンの強靭化と国際競争力の向上、成長分野への円滑な労働移動等の雇用対策パッケージ、さらなる輸出拡大を軸とした農林水産業の活性化、中小・小規模事業者の経営転換や企業の事業再構築等の支援など、いわゆる「新自由主義」と呼ばれる考え方の経済政策を加速するためのものばかりなのだ。

 つまり、構造改革やグローバル化を推し進め、多国籍企業が日本のマーケットでビジネスしやすい環境を整備するために、10兆円以上もの巨額の資金が活用されるわけだ。ということはつまり、一部は国内の一般庶民に還元されることもあるだろうが、10兆円以上の大部分が多国籍企業をはじめとした大企業に流れ、内外の資本家たちに、そして経営者たちに流出してしまうことは必定なのである。

(つづく)


<PROFILE>
藤井 聡

1968年生まれ、奈良県生駒市出身。京都大学工学部土木工学科卒。93年京都大学大学院工学研究科修士課程土木工学専攻修了。93年京都大学工学部助手、98年に京都大学博士(工学)取得。2000年京都大学大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年東京工業大学大学院理工学研究科教授を経て、09年に京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授に就任した。11年京都大学レジリエンス研究ユニット長、12年に京都大学理事補、内閣官房参与を歴任。『表現者クライテリオン』編集長。

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