2024年05月03日( 金 )

アフターコロナの市民の心を癒す「パブリックアート」の大きな役割!(4)

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画家・造形作家 佐藤 雅子 氏

 ニューヨークはアートの街として2つの点で有名である。1つは、ニューヨークには「メトロポリタン美術館(MET)」「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」など83もの美術館が存在すること。もう1つは、「パブリックアート」の街であることだ。このパブリックアートがコロナ禍の市民の心を大きく癒し、注目を集めていることについて、ニューヨーク在住の画家・造形作家である佐藤雅子氏に聞いた。
 陪席は、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、米国コロンビア大学経営大学院客員研究員として2度のニューヨーク滞在を経験した中川十郎 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長である。

作品が公共の場に置かれるチャンスが日常的にある

 ――ニューヨークは「パブリックアートの街」としても有名です。

 佐藤 ニューヨークで暮らすようになって、「パブリックアートを語らずにニューヨークは語れない」という意味を、肌感覚として実感できるようになりました。

public art
public art

 パブリックアート(public art)とは、美術館やギャラリー以外の広場や道路や公園など公共的な空間(パブリックスペース)に設置される芸術作品を指します。ロックフェラーセンターのビルのイサム・ノグチ氏によるレリーフ(壁面彫刻)、マディソンアベニューのアレクサンダー・カルダー氏による道路に施された模様のほか、高層ビルのエントランス、壁、エレベーター、階段など、ニューヨークの街中いたるところにパブリックアートがあふれています。

 「パブリックアート基金」(The Public Art Fund)は、ドリス・C・フリードマン氏によって1977年に設立された、独立した非営利芸術団体で、ニューヨーク市の公共スペースで現代美術を紹介しています。また、壁画関連では、「CITYarts()」という団体があり、ニューヨーク市やASLとも連携しています。そこでは、ARTIST CALLという声掛けコンペがあり、アーティストの作品は公共の場に置かれるチャンスが日常的に与えられています。グランドセントラル駅からまっすぐに伸びる幅広い道、パークアベニューの分離帯には数mの間隔で彫刻が置かれており、この彫刻は「The Fund For Park Avenue」によって、ニューヨーク市の娯楽や公園に関連する部局との連携の下で管理されています。

 ニューヨーク市がいかに、さまざまなネットワークを通じて、新進アーティストを支援しているかということがわかると思います。また、地下鉄では、日本でいうJRのような組織である、MTA(ニューヨーク市都市交通局)がアーティストを熱心にバックアップしており、ここのホームページに行くと「ARTIST CALL」の募集が出ています。 

 ニューヨーク市立博物館の学芸員であるリリー・タトル氏は、「パブリックアートは一部の恵まれたエリートだけが享受するものではなく、すべての人々が享受するものなのです」と語っていました。

市民生活に溶け込んでいるパブリックアート

public art
public art

 中川 いいお話ですね。私もニューヨーク滞在中には多くのパブリックアートに目を楽しませてもらいました。9.11以後、新ワールドトレードセンターになっていますが、とくに旧・ワールドトレードセンターの前に当時は広場があって、入り口に現代アート彫刻があり、さながら野外作品展のようであったことを思い出します。先ほど話題に上がったロックフェラーセンターのイサム・ノグチ氏のレリーフなど、ニューヨークでは芸術、建築、ビジネスが融合していると感じました。

 ブラジルのリオデジャネイロに住んでいたときは、海岸通りの道路にすばらしいモザイク模様が描かれていて、数mごとに彫刻のモニュメントもあり、道路を朝夕散歩していて、とても楽しかったことを思い出します。私が駐在した諸外国では、パブリックアートは市民生活に溶け込んでいることが多かったです。

交通機関のパブリックアートで有名なストックホルムの地下鉄

 佐藤 公共交通機関におけるパブリックアートとしては、香港の地下鉄MTR(Mass Transit Railway)でもアートがあふれていました。駅ごとに色分けされていたので、車内がとても混雑していても、到着駅や通過駅が一目瞭然であり、ここにもARTIST CALLがありました。

 公共交通機関におけるアートで世界的に有名なのは、スウェーデン・ストックホルムの地下鉄です。110km、約100駅に、1950年より約150人のアーティストが絵画、モザイク、彫刻、レリーフなど、さまざまな芸術作品を展示しています。まるでディズニーランドのようですばらしいです。

(つづく)

【金木 亮憲】

※:1989年に設立された非営利の公共芸術・教育団体。現在までに20万人以上の子どもたちに影響を与えている。500人以上のアーティストと協力、1,500以上のスポンサーと提携、50万人以上のボランティアが参加し、330以上のプロジェクトを行ってきた。とくに、ニューヨーク市の現代コミュニティ壁画運動の創設における先駆的な団体として広く評価されている。 ^


<PROFILE>
佐藤雅子氏
(さとう・まさこ)
 2014年の香港Asia Fine Art Gallery の「New Year Exhibition」以来、画家/造形作家としての活動を開始。ニューヨークへ移住後、さまざまな展示会の審査に合格し、賞を受賞しながら活躍の拠点を広げる。なかでも、ニューヨーク・マンハッタン区長オフィスアートショー、The Art Students League of New York の栄誉あるブルードット賞、Bronxville Women’s Club での最優秀賞は新聞、ビデオでも放映された。日本では2016年に東京都美術館でのグループ展示会にて入賞をはたし、2017年には新国立美術館、2019年には東京都美術館、2020年は代官山や銀座で出展。マニラ、ロンドン、ワシントンDC、カイロ、香港、そしてニューヨークでの生活を通し、育まれた感性と知覚を活かし、ユニークな色彩感覚と想像力を使い作品をつくり出している。
上智大学新聞学科を卒業後はCitibank に入行、その後、画家・造形作家に転身。現在に至るまで数々のポスターや商品のデザイン、雑誌の挿絵から港区立白金小学校の図書館の壁画なども手がける。ニューヨークの名門The Art Students League of New Yorkのメンバー、MoMAのアーティストメンバー、上智大学ソフィア会文化芸術グループ、現代造形表現作家フォーラムメンバー。

中川十郎氏(なかがわ・じゅうろう)
 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現・双日)入社。海外駐在20年。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師、ハルピン工業大学国際貿易経済関係大学院諮問委員。米国コロンビア大学経営大学院客員研究員。中国対外経済貿易大学大学院客員教授、同大学公共政策研究所名誉所長、WTO-PSI 貿易紛争パネル委員。JETRO貿易アドバイザー。
 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。米国競争情報専門家協会(SCIP)会員。中国競争情報協会国際顧問。日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問。天津市河北区人民政府招商大使、産業発展顧問、世界銀行CSR(企業の社会的責任)コンサルタント。オリンパス(株)特別委員会委員。日本貿易学会元理事。国際アジア共同体学会学術顧問(前理事長)。一帯一路陝西友愛研究所副会長などを歴任。14年に東久邇宮国際文化褒賞を授章。

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