2024年04月19日( 金 )

アフターコロナの市民の心を癒す「パブリックアート」の大きな役割!(5)

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画家・造形作家 佐藤 雅子 氏

 ニューヨークはアートの街として2つの点で有名である。1つは、ニューヨークには「メトロポリタン美術館(MET)」「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」など83もの美術館が存在すること。もう1つは、「パブリックアート」の街であることだ。このパブリックアートがコロナ禍の市民の心を大きく癒し、注目を集めていることについて、ニューヨーク在住の画家・造形作家である佐藤雅子氏に聞いた。
 陪席は、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、米国コロンビア大学経営大学院客員研究員として2度のニューヨーク滞在を経験した中川十郎 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長である。

不安解消、痛みを半減、セロトニン増加、血圧の正常化

 ――パブリックアートはたしかに私たちの心を和ませてくれます。しかし、それだけではなく「病気などの治癒力向上」「暴力の減少」などの極めて現実的な効果も期待されています。

ロニ―氏 作品
The Great Divide, 1996, 106x46 inches

 佐藤 イギリスにあり、修士号・博士号を授与できる世界で唯一の美術系大学院大学の「Royal College of Art」では、CW+(病院や診療所経営を含むイギリスの公式慈善団体)と提携して1998~2002年までの間、アートが患者の治癒力向上にどれだけの効果があるかという研究が行われました。

 その結果、不安解消、痛みの半減、セロトニンの増加、血圧の正常化、ムード(気分)の安定に優れた効果があることがわかっています。子ども病棟ではアートを壁などに施すと壁の損傷が減るという結果も出ています。また、ニューヨークの低所得層の住むハーレムなどでは、壁画を公園に施すことで地域の暴力が減少するという効果も確認されています。色は、心の動きと密接につながっているのです。

 アメリカの大きな病院には、キュレーター(博物館や美術館などで作品収集や研究、調査を行う専門職)がおり、アートにおける治癒力向上の効果をよく知っているのだと思います。私の恩師であるロニー・ランドフィールド氏の絵も、マンハッタンにある「Memorial Sloan Kettering Hospital」にあります。

パブリックアートを積極的に治癒力の向上に導入

 ――日本においても、コロナ後の世界では、「パブリックアート」が大きな役割をはたすと思います。

public art
public art

 佐藤 私もニューヨーク、香港などと比較して、日本ではパブリックアートが少ないことをいつも残念に思っています。そのようななか、病気の治癒力向上にパブリックアートを積極的に導入し、現実的な効果を上げている病院もあります。

 1つは総合川崎臨港病院です。院長の渡邊嘉行先生は、アメリカのテキサス大学MDアンダーソンがんセンター病院でアートの効果を目の当たりにして、総合川崎臨港病院を改装されました。また、「(独)国立病院機構四国こどもとおとなの医療センター」は、アートの病院とも言われ、院内には大掛かりなインスタレーション(展示空間の壁や床に、空間と有機的な関係をもつよう立体作品を設置する方法)や色をふんだんに取り込み、アートが患者の治療促進と癒しにおいて効果を上げています。

 私は、港区白金小学校の図書室の扉のアートを手がけたことがありますが、勉学などに集う場所でも、パブリックアートは大きな効果をもたらします。引き続き、パブリックアートを通して、コロナ後の市民の心を癒すことに貢献していきたいです。

 中川 同感です。私の友人で、福岡県にある某公立病院を設計した建築家がいますが、日本の病院はどこも灰色または白の壁であり、病院のなかが白で塗りつぶされていることに疑問を感じていたようです。入院している患者にとって、白が病気を連想させてしまうことを懸念していたのです。彼は、たとえば小児病棟で鮮やかできれいな花を壁に描き、天井には星空などを描くことができれば治癒力も向上するのではないかと言っていました。さらに、立地条件などの制約はありますが、散歩ができる庭や池などもあれば、治癒力向上につながると主張していました。

(つづく)

【金木 亮憲】


<PROFILE>
佐藤雅子氏
(さとう・まさこ)
 2014年の香港Asia Fine Art Gallery の「New Year Exhibition」以来、画家/造形作家としての活動を開始。ニューヨークへ移住後、さまざまな展示会の審査に合格し、賞を受賞しながら活躍の拠点を広げる。なかでも、ニューヨーク・マンハッタン区長オフィスアートショー、The Art Students League of New York の栄誉あるブルードット賞、Bronxville Women’s Club での最優秀賞は新聞、ビデオでも放映された。日本では2016年に東京都美術館でのグループ展示会にて入賞をはたし、2017年には新国立美術館、2019年には東京都美術館、2020年は代官山や銀座で出展。マニラ、ロンドン、ワシントンDC、カイロ、香港、そしてニューヨークでの生活を通し、育まれた感性と知覚を活かし、ユニークな色彩感覚と想像力を使い作品をつくり出している。
上智大学新聞学科を卒業後はCitibank に入行、その後、画家・造形作家に転身。現在に至るまで数々のポスターや商品のデザイン、雑誌の挿絵から港区立白金小学校の図書館の壁画なども手がける。ニューヨークの名門The Art Students League of New Yorkのメンバー、MoMAのアーティストメンバー、上智大学ソフィア会文化芸術グループ、現代造形表現作家フォーラムメンバー。

中川十郎氏(なかがわ・じゅうろう)
 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現・双日)入社。海外駐在20年。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師、ハルピン工業大学国際貿易経済関係大学院諮問委員。米国コロンビア大学経営大学院客員研究員。中国対外経済貿易大学大学院客員教授、同大学公共政策研究所名誉所長、WTO-PSI 貿易紛争パネル委員。JETRO貿易アドバイザー。
 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。米国競争情報専門家協会(SCIP)会員。中国競争情報協会国際顧問。日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問。天津市河北区人民政府招商大使、産業発展顧問、世界銀行CSR(企業の社会的責任)コンサルタント。オリンパス(株)特別委員会委員。日本貿易学会元理事。国際アジア共同体学会学術顧問(前理事長)。一帯一路陝西友愛研究所副会長などを歴任。14年に東久邇宮国際文化褒賞を授章。

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