2024年05月08日( 水 )

アフターコロナの市民の心を癒す「パブリックアート」の大きな役割!(6)

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画家・造形作家 佐藤 雅子 氏

 ニューヨークはアートの街として2つの点で有名である。1つは、ニューヨークには「メトロポリタン美術館(MET)」「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」など83もの美術館が存在すること。もう1つは、「パブリックアート」の街であることだ。このパブリックアートがコロナ禍の市民の心を大きく癒し、注目を集めていることについて、ニューヨーク在住の画家・造形作家である佐藤雅子氏に聞いた。
 陪席は、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、米国コロンビア大学経営大学院客員研究員として2度のニューヨーク滞在を経験した中川十郎 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長である。

今までに以上に、人は美術館やギャラリーに足を運ぶ

 ――コロナ後のアートの世界をどう考えていますか。

 佐藤 コロナ禍にある現在は、アートの街ニューヨークでも、美術館、ギャラリーなどが苦境にあるのは世界各国と変わりません。多くのギャラリーは閉鎖し、地価の安いところへ移動しています。また、原則、人数を制限したうえで開館しており、個人情報の開示や予約が必要となっています。

 多くの美術館は約25%のキャパシティーで稼働しています。そこで、コロナ禍でのアートと今後の展望について、アメリカのコンテンポラリーアートを代表する抽象画家で、恩師でもあるロニー・ランドフィールド氏や美術学校のASL(The Art Students League of New York)の友人にも意見を聞いてみました。

「パブリックアートはコミュニケーションにおいて必要不可欠なものです。アーティストはいかなる場合でも制作をやめてはいけません。コロナが収束したら、人々は今までに以上に、美術館やギャラリーに足を運ぶことになると思います。今はただコロナの恐怖で、あらゆるアートの活動が閉ざされてしまったことを残念に思っています」(恩師のRonnie Landfield氏)

「コロナ禍で、美術館、ギャラリー、コンサートや舞台活動などが閉ざされてしまったことは悲劇でした。しかし、コロナ禍が収束すれば、この反動で人々は直接的にアートに触れ、より密接したコミュニケーションを求めると思います。これは、芸術や芸術家にとって、新たな時代に入ることを意味します。美的瞬間とは、人と人との熱い交流によって生まれてくるものと考えています」(友人のCraig Shannon氏)

「コロナ後は、今まで以上に、人々の交流が盛んになると思り、インスタレーションなど、人が参加できるアートが増えると思います。写真を撮ってソーシャルメディアに投稿できるMoMAにあるRain Roomのようなインスタレーションが増えるのかもしれません」(友人のDagmar Hartter氏)

美術館でお金を払って見るものだけが芸術ではない

public art
public art

 佐藤 私の意見も恩師ロニー・ランドフィールド氏やASLの友人らと似ています。目に見えないウイルスが、日常生活にここまで影響をおよぼすものとは思ってもみませんでした。早く、ギャラリーに足を運び、美術館を訪れ、コンサートに出かけて友人と語らい、ともに制作に没頭できる環境を取り戻したいと思っています。人が不在となるデジタル化が進めば進むほど、人は他人との交わりをより強く求めるように、コロナ後では今までより一層、アートを渇望するのではないかと思っています。

 一方で、この機会に日本においても、パブリックアートが促進されていくことを期待しています。ギャリーに足を運んだり美術館に行ったりしなくても、人々の心を癒してくれる空間がコロナ後には必ず必要になってきます。

 美術館でお金を払って見るものだけが芸術ではありません。街を歩いていても、非日常が感じられ、今抱えている問題を忘れることができ、心の安らぎを覚えることはとても大切なことです。東京・丸の内、新宿、銀座などの高層ビルのロビー、壁面、階段、エレベーターをはじめ、街並み全体がニューヨークのようにアートに囲まれる空間になれば、どんなに素敵かと思います。

 私は「現代造形表現作家フォーラム展」(東京都美術館 5月3日~10日)に向けて、全長約3mのインスタレーションを製作中です。読者の皆さまが会場にお越しの際は、ぜひお気軽にお声をおかけください。お目にかかれることを、楽しみにしております。

ビジネス交渉は商品だけでなく人間対人間の総合力

佐藤氏作品 Rebirth and Hope
佐藤氏作品 Rebirth and Hope

 中川 最後に、若い読者の皆さまに1つ、エールを送りたいと思います。若い皆さまがこれから、国際ビジネスパーソンとしてご活躍を目指す場合は、ビジネスや商談だけでなく、文化・芸術的素養も身につけてほしいと思います。日本の商品はたしかに優秀ですが、商品だけに限っていえば、中国、アセアン諸国に早晩追いつかれると思いますし、分野によってはすでに追い越されています。今後のビジネス交渉は、商品だけでなく、文化・芸術、教養・趣味を交えた、人間対人間の総合力の交渉になると思うためです。

 歴史を遡ると、倉敷絹織(株)(現・(株)クラレ)の創始者の大原孫三郎・総一郎氏が岡山・「大原美術館」、出光商会(現・出光興産(株))の創始者の出光佐三氏が東京・「出光美術館」、ブリッヂストンタイヤ(株)(現・(株)ブリヂストン)の創始者の石橋正二郎氏が東京・「アーティゾン美術館(旧・ブリヂストン美術館)」、(株)川崎造船所(現・川崎重工(株))の初代社長の松方幸次郎氏が「松方コレクション(現・国立西洋美術館)」を設立したほか、ホテルオークラ創始者の大倉喜八郎氏、渋沢栄一氏など、経済人であり、かつ教養ある文化人は、日本にもたくさんいました。今日本の経済力は衰退しつつあり、賢明な読者の皆さまには、これら先達の方々にぜひ学んで欲しいと思います。

(了)

【金木 亮憲】


<PROFILE>
佐藤雅子氏
(さとう・まさこ)
 2014年の香港Asia Fine Art Gallery の「New Year Exhibition」以来、画家/造形作家としての活動を開始。ニューヨークへ移住後、さまざまな展示会の審査に合格し、賞を受賞しながら活躍の拠点を広げる。なかでも、ニューヨーク・マンハッタン区長オフィスアートショー、The Art Students League of New York の栄誉あるブルードット賞、Bronxville Women’s Club での最優秀賞は新聞、ビデオでも放映された。日本では2016年に東京都美術館でのグループ展示会にて入賞をはたし、2017年には新国立美術館、2019年には東京都美術館、2020年は代官山や銀座で出展。マニラ、ロンドン、ワシントンDC、カイロ、香港、そしてニューヨークでの生活を通し、育まれた感性と知覚を活かし、ユニークな色彩感覚と想像力を使い作品をつくり出している。
上智大学新聞学科を卒業後はCitibank に入行、その後、画家・造形作家に転身。現在に至るまで数々のポスターや商品のデザイン、雑誌の挿絵から港区立白金小学校の図書館の壁画なども手がける。ニューヨークの名門The Art Students League of New Yorkのメンバー、MoMAのアーティストメンバー、上智大学ソフィア会文化芸術グループ、現代造形表現作家フォーラムメンバー。

中川十郎氏(なかがわ・じゅうろう)
 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現・双日)入社。海外駐在20年。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師、ハルピン工業大学国際貿易経済関係大学院諮問委員。米国コロンビア大学経営大学院客員研究員。中国対外経済貿易大学大学院客員教授、同大学公共政策研究所名誉所長、WTO-PSI 貿易紛争パネル委員。JETRO貿易アドバイザー。
 日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。米国競争情報専門家協会(SCIP)会員。中国競争情報協会国際顧問。日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問。天津市河北区人民政府招商大使、産業発展顧問、世界銀行CSR(企業の社会的責任)コンサルタント。オリンパス(株)特別委員会委員。日本貿易学会元理事。国際アジア共同体学会学術顧問(前理事長)。一帯一路陝西友愛研究所副会長などを歴任。14年に東久邇宮国際文化褒賞を授章。

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