2022年05月19日( 木 )
by データ・マックス

都市・住宅に「もっと緑を」 今こそ見直すべき、庭園の役割

(株)別府梢風園

環境負荷を軽減するグリーンインフラ

国土交通省での黄綬褒章の授与式

 「近年、昔に比べて豪雨などの自然災害が激甚化していますが、都市や住宅地などで雨水の一時的な受け皿となり得る緑が失われていることで、行き場をなくした水があふれ返り、被害の拡大につながっている面があると思います。今こそ、緑や庭園などの役割をもう一度見直すべきではないでしょうか」―と熱く語るのは、福岡市東区に本社を構える(株)別府梢風園の代表取締役・別府壽信氏だ。

 1965年12月に創業した同社は、これまでの半世紀以上にわたる業歴のなかで、官公庁や企業、個人などからのさまざまな要望に応え、本格的な日本庭園や今風のモダンな庭園、建物回りの外構全体を設計・施工するエクステリアなど、多種多様な造園工事を手がけてきた。また、つくるだけでなく、樹木の点検や維持管理、さらには太宰府天満宮や香椎宮など由緒ある神社での樹勢回復養生工事なども多数実施。伝統的な技法から最先端技術まで、造園工事と緑のスペシャリストとしての実績を重ねてきた。別府社長自身も長年にわたる業界での功績が評価され、2019年11月には黄綬褒章を授与されている。

 別府社長は、近年のたび重なる豪雨災害などの発生に対し、環境負荷を軽減する「グリーンインフラ」を積極的に取り入れていくことが重要だと説く。たとえば、環境先進国である米・シアトルやポートランドでは、降雨時に雨水を一時的に貯留して地下へ浸透させる透水型の植栽スペース「レインガーデン」などのグリーンインフラを取り入れたまちづくりが官民で進んでいるというが、この点、日本はまだまだだ。

 「コロナ禍の影響で、家族と一緒に過ごす家での時間が増えてきていると思いますが、どうせ過ごすなら、やはり緑に囲まれた環境のほうが良いでしょう。皆さまが緑・庭の良さを再認識するとともに、それがひいては災害抑制にもつながることを期待しています」(別府社長)。

日本庭園という文化を絶やしてはならない

モナコ公国で手がけた本格的な日本庭園

 都市から緑や庭園が失われることで、別府社長が危惧するのは自然災害の発生だけではない。日本庭園という文化そのものが失われてしまうことだ。
 「個人の住宅から日本庭園が姿を消してしまうことは、時代の流れである意味仕方ない部分はあるかもしれません。ただ、このまま日本庭園の数が減っていけば、やがて施工できる職人さんもいなくなってしまい、脈々と受け継がれてきた日本庭園という伝統文化が断絶してしまいます。それだけは避けなくてはなりません。都市公園などの公共事業などでも、日本庭園の施工がもっと増えてくれれば、と願っています」(別府社長)。

モナコ公国現地の日本庭園管理スタッフと

 時代の移り変わりとともに、塀や生垣で囲われた伝統的日本家屋が減少。新築の住宅のほとんどは、モダンなオープン外構のものが主流になった。とくに限られた敷地のなかでは駐車場の確保が最優先されて、庭園スペースはないがしろにされてしまうこともザラだ。もちろん同社では新たな庭園の在り方を絶えず模索し続けており、限られたスペースやモダンな空間のなかでも日本庭園の精神を取り入れた「趣のある庭づくり」を行うことを心がけている。しかし、同社においても新築住宅で日本庭園を手がけることは、ほとんどなくなってしまったという。

そんな同社が手がける日本庭園は、国内だけでなく海外でも非常に高い評価を受けており、その代表例がモナコ公国につくられた日本庭園だ。モナコ公国の全面的な協力の下、地中海を臨む埋立地につくられた池泉回遊式の本格的な日本庭園は、モナコ政府からも「欧州随一」との賛辞を受けるほどの出来栄えで、開園から20年以上経った今でも、現地の代表的な観光名所の1つとなっている。現在、海側部分での埋立工事をともなう新たな開発に合わせて日本庭園も拡張される計画で、現地の職人に指導・協力しながら進めていく予定だ。

 日本庭園が海外で注目を集めて評価されることは、日本人が自分たちのアイデンティティーや文化の価値を外からの視点で再認識することに、いずれつながっていくのではないか―と、別府社長は期待を抱いている。

現場重視の教育体制で文化の守り手たる職人を育成

 そんな同社では、伝統的な技術の継承も自社の使命だと考えており、職人の育成のために毎年新たな人材の採用を欠かさない。造園工事は机上の空論ではなく、現場での感性がモノをいう世界。そのため同社でも現場での教育に重きを置いている。

 「近年、ICT施工やAIなどの先端技術の進歩は目覚ましいですが、造園工事―とくに日本庭園の施工においては、まだまだ人の手に頼らざるを得ない部分が大きいです。木や石などの自然の造形物が相手ですから、どれ1つとして同じものがありませんし、配置に際しても自然の摂理に則った原理原則があります。私もよく先代から『石の声、木の声を聞け』といわれましたが、こればかりは現場で感性を磨かないことには、一人前にはなれません」(別府社長)。

 同社には、仕事に関するさまざまな事項を、先輩から後輩へと丁寧に教え伝えていく体制が整っており、現場で4~5年ほど汗をかけば一通りの技術を習得できる。もちろん本当に一人前になるには、感性を磨くことも含めて、自分なりの研鑽は必要だ。

 SDGsの取り組みが世界的に進んでいくなかで、今後、都市においても住環境においても、緑や庭園のはたす役割は見直されてくるだろう。そのなかで、技術の研鑽と職人の育成を怠らず庭づくりに邁進し続ける同社の存在感は、さらに増していくに違いない。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:別府 壽信
所在地:福岡市東区青葉1-6-53
設 立:1976年6月
資本金:8,500万円
TEL:092-691-0678
URL:https://www.shoufuen.co.jp


<プロフィール>
別府 壽信
(べっぷ ひさのぶ)
1955年11月、福岡県生まれ。西日本短期大学造園学科卒業後、76年に(株)別府梢風園に入社。85年に同社代表取締役社長に就任した。(公社)日本エクステリア建設業協会の会長も務める。2019年11月に黄綬褒章を受章した。

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