2024年04月20日( 土 )

【スエズ座礁事故】運河と国際物流の脆さ

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 大型コンテナ船(全長約400m)がスエズ運河で座礁した事故は、1隻の船舶が海上交通の要である同運河を塞いでしまうという点で人々を驚かせるとともに、運河の脆弱性を露呈させた。同時に、グローバルなサプライチェーンも同様に、この脆弱な運河に依拠する脆いものであることが浮き彫りとなった。

 スエズ運河は1869年の開通当初、全長164km、深さ8mであった。その後、何度か拡張工事を行い、全長193km、深さ24mとなった。なお、現在通行できる船舶の幅は喫水20.1m以下、船幅77.5m以下であり、最大喫水は船幅に依存して変化する(船幅が50mの場合、最大喫水は20.1m、船幅が77.5mの場合、最大喫水は9.1m)。

 スエズ運河は幅の狭さから一方通行であり、事故発生のリスクは以前からも認識されていた。エジプトは2014年、約80億ドルを投資して、既存の運河に並行する「新スエズ運河」の建設を開始し、翌15年に35kmにわたる新運河を竣工させていた。しかし、今回座礁した場所はあいにくこの新運河の流域ではなく、ほかの航路がなかったため通航停止に追い込まれることとなった。

 今回、船舶が座礁したのは3月23日、離礁に成功したのは29日であった。離礁のために大量の砂を除去したほか、大型のタグボート(曳船)を必要とした。状況によっては、船舶のコンテナを降ろすなどの軽量化作業のため、数週間の日数を要していた可能性も指摘されている。今回の事故は、通航止めとなる脆さのみならず、復旧させ、物流を正常化できるまでにどれだけの日数を要するかも不確定であるという脆さも露呈した。

 エジプトは今後のリスクヘッジおよび収入増のため、双方向通行を可能とする拡張工事に着手するのが望ましいのではないか。スエズ運河の通行料はエジプトの主要な外貨収入源となっており、18年度の収入は約57億ドル、GDP全体の約2.4%を占めた。

 国際物流面で、検討可能なほかの選択肢には以下のものがあるが、現時点ではスエズ運河の代替航路にはなり得ない。

 南アフリカの喜望峰を大回りするルートは、スエズ運河経由よりも航海期間が約1週間長く、コストもその分高くなる。ロシアなどが進める北極海航路はスエズ運河経由よりも航路を短縮できるメリットはあるものの、耐氷性の高い船舶を必要とするうえ、年間を通しての通航は実現できていない。中国が進める「一帯一路」構想の下、増大している中国―ヨーロッパ間の国際定期貨物列車「中欧班列」は、今回の事故を受けて引き合いが高まっているが、海上輸送よりもコストは高い。

【茅野 雅弘】

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