2024年04月25日( 木 )

3Dプリンタで複雑な形状にも対応、RC造の省力化へ、清水建設のコンクリートDX

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埋設型枠を短期間で構築

 清水建設(株)は2月、3Dプリンティングで施工した埋設型枠を「(仮称)豊洲六丁目4-2・3街区プロジェクト」で、初めて現場に採用した。この3Dプリンティング型枠は強度が高く、強い衝撃に対して粘り強さをもつ繊維補強モルタル「ラクツム(LACTM)」を積み重ねて造形したもの。従来は施工が難しかった花びら状にねじれた曲面をもつ高さ4.2m、直径2.2~2.7mの柱の埋設型枠を短期間で構築し、同敷地内に整備する交通広場の上部を覆う大規模デッキのコンクリート柱4本の埋設型枠として用いた。この埋設型枠は、コンクリート打設後も取り外さずに柱の一部として使用される。

 人手不足の建設業界で、RC造の施工で省力化できるカギとなるのが、部材のプレキャスト化だ。3Dプリンティング型枠の材料として清水建設が開発したラクツムを用いると、型枠のような薄い部材であっても形状を保持したまま、2m以上の高さまでロボットアームを使用した3Dプリンタで積層できる。積層面は目視でわからないほどに一体化していて、気泡や空隙を内部にほとんど生じないという。専用実験施設「コンクリートDXラボ」で3Dプリンタを利用して、柱1本ずつを水平方向に3分割、垂直方向に2分割した形状を積層造形して大型柱の埋設型枠を製作し、現場に搬入した。

清水建設(株) 技術研究所 社会システム技術センター
インフラ技術グループ主任研究員 小倉 大季 氏

 清水建設技術研究所・社会システム技術センター・インフラ技術グループ主任研究員・小倉大季氏は、「従来の計画では、通常の木製の型枠で柱を構築することを予定していたが、現場サイドから新しく開発した3Dプリンティング技術で型枠を製造してほしいという依頼を受けた。『3Dプリンティングならではの、これまでにはないかたちの構造物をつくりたい』という設計者の強い思いもあり、3Dプリンティングの特徴を活かせる自由曲面(※)形状の造形にチャレンジした」という。

※:球体や円柱などのように単純な数式では表すことができない複雑な曲面。

「(仮称)豊洲六丁目4-2・3街区プロジェクト」
所在地 :東京都江東区
竣 工 :2021年8月予定
総事業費:約600億円

1Fの交通広場の上部を覆う大規模デッキのコンクリート柱
1Fの交通広場の上部を覆う大規模デッキのコンクリート柱

現場の省力化

 3Dプリンタで造形した埋設型枠は、製作完了後、現場で柱の鉄筋の組立作業を行い、3Dプリンティング型枠を搬入して所定の位置に組み立て、コンクリートを打ち込むという手順だ。通常の型枠工事に比べて、現場での型枠の作製・組立・解体作業を省略することができる。また、3Dプリンティング型枠は強度が高く、コンクリートを打ち込む際、型枠に発生する側圧を支えるための支保工の削減ができる点で、効率化されている。

 今回のプロジェクトで利用した埋設型枠の造形は実働24日だったというが、コスト面については、「従来の型枠を用いた工法では自由曲面の形状を実現できないので、単純なコスト比較は難しい」(小倉氏)としている。「繊維強化プラスチック(FRP)やウレタンなどで作製する場合、3Dプリンティングで構築した場合に比べて、コストや期間を要する。とくに、今回は柱の形状を決定した翌週から実製品の製造を開始したが、そのようなスピード感は従来の工法では不可能だと思われる」(小倉氏)。

左:自由曲面形状を有する3Dプリンティング型枠で構築した高さ4.2mの柱
右:左側2本は左巻き、右側2本は右巻きのねじれ形状のコンクリート柱
左:コンクリート柱の上部
右:3Dプリンティング型枠の製作状況

今後の利用計画

 「ラクツム」で積層造形した3Dプリンティング型枠は、構造物の3次元データがあれば、素早く簡単に曲面形状を造形できる。そのため、多品種小ロット生産でもコストを抑えることが可能となり、設計の自由度を飛躍的に向上させると期待されている。今後の利用については、「これまでにはない構造物の『かたち』を実現するために利用されることを想定している」(小倉氏)。

 本プロジェクトの円状の基部から頂部に向かってねじれる花びら状の柱のように、3Dプリンティングの特徴を最大限に活かせる複雑な形状の施工において活用していく。一方、オーソドックスな形状の部材を造形する場合にも省力化などのメリットがあると見込まれるため、「多数の現場に対応できるように生産システムの構築を行い、建築、土木を問わずに、複数の現場への活用を進めていく」(小倉氏)と意欲を見せる。

 清水建設は、ロボットなどの装置が施工現場で柱などの部材を直接プリントするオンサイト3Dプリンティングの実現を目指し、研究開発を進めている。それらが実現すれば、現場で直接プリントすることで、製造した型枠を運搬して設置する手間も省略できるようになる見込みだ。

【石井 ゆかり】

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