2024年03月29日( 金 )

【マンション管理を考える】改正で何が変わる?マンション管理適正化法(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 2020年6月、約20年ぶりの改正となるマンション管理適正化法が公布された。施行は2年後。全国の都市圏を中心に建築されたマンションストックが年々老朽化していくなか、大規模修繕や建替えといったマンション管理が適切に実施されていない実状がある。「タワマン」に代表される大型マンションも増え続けており、マンション管理の高度化、複雑化という問題も拡大しつつある。マンション管理の実態はどうなっているのか。管理スキームに問題はないのか。法改正によって、マンション管理の何が改善されるのか。

不適切管理には勧告

 政府は20年6月、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律案(改正マンション管理適正化法)」を公布。マンション管理の適正化、マンション建替えの円滑化のための法改正になる。

 最初のマンション管理適正化法の公布は2000年(施行は01年)。これに先立ち同年制定された「マンション管理の適正化に関する指針」に基づき、マンション管理は管理組合が主体となって行う努力義務を規定したほか、マンション管理士資格の創設、マンション管理業者登録制度の創設、(公財)マンション管理適正化推進センターの設立などを定めていた。管理適正化については、国が基本方針(大臣告示)を策定し、自治体はこの基本方針に基づき、管理適正化に向けた計画(マンション管理適正化推進計画)を策定する(任意)とした。計画を定めた自治体は、一定の基準を満たすマンションの管理計画を認定することができる一方、管理運営が著しく不適切なマンションに対し、勧告を行うことができるとした。勧告とは「~したほうが良いよ」と勧める程度の弱いもので、強制力はない。不適切な管理運営とは、管理組合の実態がない、管理規約がない、総会がないといった状況を想定している。施行はいずれも公布後2年以内。

 建替えの円滑化は、耐震性がなく、メンテナンスが困難なマンションを対象としたもので、マンション敷地売却事業の合意要件を「所有者全員の合意」から「所有者の5分の4の合意」に緩和する。マンション敷地売却事業とは、組合がデベロッパーにマンションと敷地を一括で売却するスキームを指す。ボロボロで危険と判断されるマンションは、所有者全員の合意がなくても、デベロッパーに売れるようにしたということになる。耐震性のないマンションを建て替える場合には、新たなマンションの容積率緩和特例の適用対象とする。施行はいずれも公布後1年6カ月以内。国交省では、今回の法改正の目標・効果として、25年以上の長期修繕計画に基づく修繕積立金額を設定している管理組合を約54%(18年)から70%(25年)に引き上げるほか、マンションの建替え件数をこれまでの累計325件から約500件(25年)に増やすとしている。

国交省資料より
国交省資料より

管理適正化は進むのか?

 今回の法改正により、管理組合だけでなく、国や自治体、専門業者それぞれの役割を位置付けたことには一定の意義がある。ただ、これをきっかけに、マンション管理の適正化が大きく改善するとは思えない。この中身を見る限り、その多くは努力規定にとどまっているほか、管理計画の策定は任意で、不適切管理に対して行政ができるのも勧告だけだ。これで本当に管理適正化が進むのか。隔靴掻痒の感がある。

 それぞれのステークホルダーが、与えられた役割をどれだけ果たせるのかも気になる。自治体を例にとると、それぞれの自治体が域内にある数百、数千に上るマンションの管理状況を把握するためには、相応のマンパワーが必要になるが、努力規定のために、それだけのリソースを割ける自治体がどれだけあるか疑わしい。

 また、マンション管理士や管理会社を一括りにして、とりあえず専門家に任せれば大丈夫という立て付けをとっているが、「信頼できる管理会社を知りたい」という管理組合の求めにちゃんと応えていないのも腑に落ちない。管理組合の適不適認定をするのであれば、管理会社の評価認定も実施して然るべきではないだろうか。

 そして何より、多額の費用を要する大規模修繕や建替えについて、補助や融資といった公的資金の投入に関する文言が一切入っていないのが気に食わない。個人財産への公的資金の投入は、特定の管理組合を甘やかすことにもなりかねず、行政として軽々に踏み込めないのは理解できる。ただ、真水を一切投入することなく、「しっかり管理しましょう」といったところで、「どこまで本気なのか?」とツッコミたくなる。

 規制緩和や規制強化で政策誘導しようという手法は、ここ20~30年のトレンドだが、はたしてそれだけで、マンション管理の適正化が本当に実現するのだろうか。

(了)

【フリーランスライター・大石 恭正】

(中)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連キーワード

関連記事