2024年04月25日( 木 )

東芝・車谷社長が事実上のクビ、CVCと仕掛けた救済策が大炎上(2)

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 「策士、策に溺れる」。東芝の車谷暢昭社長が辞任した。事実上の解任である。「ものいう株主」に追い込まれた車谷社長を救済するため、「プロ経営者」の藤森義明氏が英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズと組んで仕掛けた東芝の買収劇。車谷社長は前CVC日本法人の会長、東芝社外取締役・藤森氏はCVC日本法人の最高顧問。車谷社長の「自己保身」のための出来レースと猛反発を招き、失敗に終わった。

CVC会長に車谷氏、最高顧問に藤森氏が就任

 CVCキャピタル・パートナーズは米金融大手シティグループの流れを汲み、1981年に発足。未公開会社を主な投資先とするプライベート・エクイティ・ファンドとして世界最大級で、運用規模は約3.4兆円とされる。

 2017年5月、CVCは日本法人の会長兼共同代表に三井住友銀行の副頭取を退任した車谷暢昭氏を起用。同時に、LIXILグループの前社長・藤森義明氏も最高顧問に任命した。日本で投資ペースを拡大し、1,000億円以上投資する計画。日本市場に精通した首脳級人材を招き、弾みをつけたい考えだ。

 CVC日本法人代表の赤池敦史氏は、藤森氏が東大在学中に所属したアメリカンフットボール部「ウォーリアーズ」の後輩。アメフト部の先輩・後輩のつながりである。

 ところが、この「3人衆」が動き出した直後の18年4月、車谷氏は東芝の会長兼CEOに招かれた。東芝は不正会計問題や原発事業の巨額損失などで経営危機に陥り、投資ファンドの6,000億円の巨額出資で債務超過転落を免れた。海外投資家の株主比率は7割に高まった。投資ファンドの対応は東芝の生え抜き社長では無理。そこで、メインバンクの三井住友銀行は、投資業界に精通している車谷氏を送り込んだ。

 車谷氏は、「プロ経営者」の異名をとる藤森義明氏を東芝の社外取締役に招いた。19年6月のことだ。「ものいう株主」対策であることはいうまでもない。

経産省参与がハーバード大基金に干渉

 東芝は今年3月18日に臨時株主総会を開き、昨夏の定時株主総会が公正に運営されていたかを調べるように求めた「ものいう株主」の提案が、賛成多数で可決された。東芝が関東財務局に提出した臨時報告書によると、賛成は57.90%、反対は41.86%だった。

 議案を提出したのは、東芝株の1割弱を握る筆頭株主であるシンガポールの投資ファンド「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」。通産省出身で旧村上ファンドの元代表・村上世彰氏がニッポン放送株をめぐるインサイダー取引容疑で逮捕された後、同ファンド出身の今井陽一郎氏ら3人が村上氏とたもとを分かつかたちで設立したのがエフィッシモだ。

 発端は昨年7月の定時株主総会に遡る。エフィッシモが社外取締役候補を独自に提案し、会社側と対立した。大株主である東芝の議決権4%超を保有するハーバード大基金が、エフィッシモの社外取締役候補が選任されるカギを握ると注目されていた。

 ハーバード大基金をめぐり大問題が持ち上がる。ロイター通信(20年12月23日付)によると、「年金積立金管理運用独立法人(GPIF)のCIO(最高投資責任者)を務めた後、経済産業省の参与に5月に就任した水野弘道氏から説明を受け、ハーバード大基金は議決権行使を断念した。水野氏は総会の1週間前、ハーバード大基金に対し、『会社提案にノーといえば、(外為法上の)インベスティゲーション(調査)が入りますよ』と連絡した」。

 改正外為法では複数の外国投資家が合意し、上場会社の議決権を行使する場合、議決権の合算が10%以上だと新たな届出対象となる。水野氏が取り上げたのは、エフィッシモとハーバード大基金の関係。同基金はエフィッシモにも出資していた。当時の両者の議決権を合算すれば2割になった。水野氏は、会社側と対立する内容の議決権を行使した場合、改正外為法に基づく調査が行われるぞと圧力をかけ、議決権行使を断念させたわけだ。

 水野弘道氏(55)はノースウエスタン大学ケロッグ大学院卒。住友信託銀行に入社後、日本国内、シリコンバレー、ニューヨークなどで投融資業務に従事。03年からロンドンのプライベート・エクイティ・ファンドであるコラーキャピタルのパートナーを務める。

 15年1月、世界最大の年金資産を保有する年金積立金管理運用(独)(GRIF)の理事兼CIO(最高投資責任者)に就任。20年5月、経済産業省の参与に就いた。議決権の圧力問題を海外メディアが大きく取り上げたため、今年1月に経産省の参与を退任。国連の革新的金融と持続的な可能投資に関する特使に移った。

 エフィッシモは、経産省参与の水野氏から圧力があったことを問題にした。東芝は「不当な干渉はなかった」とする立場をとったが、エフィッシモは納得せず、徹底した調査を行うべきだとして臨時株主総会の開催を要求。3人の弁護士の選任を求めた。

 株主の間には、再度徹底した調査を行う必要があるとの考えが広がり、エフィッシモの提案が可決された。今後、エフィッシモが推す3人の弁護士が調査し、6月の定時株主総会で結果が報告される。

(つづく)

【森村 和男】

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