大西一史・熊本市長に聞く、ポスト震災まちづくりの進捗(1)
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熊本市長 大西 一史 氏
2016年4月に発生した熊本地震から5年が経過した。震災からの復興は、1つの大きな節目を迎えている。復興のシンボルである熊本城は、天守閣の復旧工事が完了し、4月26日から内部公開がスタートした。JR熊本駅周辺では、同じく4月23日には「アミュプラザくまもと」が開業。駅前のさらなる賑わいへの期待が高まっている。熊本市内を見渡すと、商業施設、バスターミナルなどからなる複合施設「SAKURA MACHI Kumamoto」が19年9月にオープン。街中に防災機能を併せもった新たな拠点が生まれた。熊本市はすでに、震災復興に転じたといえるのか。この節目を機に、今後どのようなまちづくりを進めていくのか。大西一史・熊本市長に話を聞いた。
コロナ禍でも復興着実に
――以前取材した際(19年末ごろ)、「2020年は『復旧から復興』への転換の年」とおっしゃっていました。振り返ってどうですか。
大西 20年は「復旧から復興」へ大きく転換する年になると考えていましたが、年初から全国的に感染が拡大していった新型コロナウイルス感染症への対応に終始することとなり、「新型コロナウイルスに始まり新型コロナウイルスで終わる」、そういう1年だったというのが正直なところです。ちょうど復興需要が剥落していくなかでコロナ禍に見舞われたため、地域経済へのダメージが非常に大きく、そういう意味では、感染症対策と地域経済を守っていく、その両方を同時に迫られた非常に厳しい1年でした。
熊本市では、これまで市独自の専門家会議の設置やリスクレベルの設定、総額約1,000億円に上る緊急対策の実施など、先手先手の対応に努めてきました。また、市民の皆さまには、外出自粛要請や営業時間短縮要請などさまざまな活動を制限することもあり、負担は大きかったと思いますが、感染防止対策の徹底にご協力いただいたおかげで、一時期市内で感染が拡大したものの、最近は比較的落ち着いている状況です。
今後も予断を許さない状況は続きますが、熊本地震を経験したことで、「協力するときは皆で協力しよう」という市民の皆さまの高い意識を、コロナ禍のなかで実感した1年でもありました。物理的な復興も当然大事ですが、人と人との気持ちや心のつながりのうえに成り立つ精神的な面の復興も大切であり、市民の皆さまのそうした面での力強さが出てきたのかなと感じています。
前回の取材では、仮設住宅などにお住まいの世帯が947世帯でしたが、21年3月末時点では17世帯まで減少しました。プレハブ仮設の世帯についてはゼロとなり、99%以上の世帯の方々が恒久的な住まいを確保されたことを考慮すると、住まいの再建など特定の部分においては、コロナ禍ではありましたけれども、復旧から復興への転換が順調に進んできていると考えています。
――「ようやく震災復興かと思ったら、コロナがきた」という感じですか。
大西 そうですね。コロナ禍から「復興に水を差された」という印象です。これまで順調に復興に向けて歩みを進めていた方々でさえ、コロナ禍によって厳しい状況に追い込まれたという事例が少なくありません。コロナ禍は震災の延長線上にあるといえます。熊本市にとって、まさにダブルパンチをお見舞いされたようなものです。そういう意味では、熊本市のダメージは、ほかの自治体に比べて、一段と深刻であると思っています。たとえば、震災で被災したお店では、借金をしてようやくお店を再建して「さあ、これからだ」というときに、コロナ禍のためにさらに新たな借金をしなければならなくなったわけですから。
そのため本市では、地域経済への影響を見据えた市独自の緊急対策の第1弾として、熊本県と連携した金融支援策などを皮切りに、緊急家賃支援金などの事業継続支援、飲食店の設備改修などに対する助成、感染拡大防止実践店の認証、テレワークの利用促進などの感染防止対策の強化支援、さらにはプレミアム付き商品券・宿泊クーポンなどの消費喚起に係る施策を実施するなど、多様で切れ目のない支援を実施してきました。
【フリーランスライター・大石 恭正】
(つづく)
<プロフィール>
大西 一史(おおにし・かずふみ)
1967年12月、熊本市生まれ。92年に日本大学文理学部心理学科卒業後、日商岩井メカトロニクス(株)に入社し、94年に退職。内閣官房副長官秘書を経て、97年に熊本県議に就任(5期)。2014年12月に熊本市長に就任し、現在2期目。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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