2024年04月26日( 金 )

2022年以降の世界経済秩序~米中激突と日本の最終選択(7)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 グローバリズムや自由貿易といった「幻想」は雲散霧消した。米国は左右に引き裂かれ、欧州は泥沼状態にある。一方で中国やロシア、東欧などでは全体主義の傾向が強まっている。2022年以降の世界経済秩序はどうなるのか。谷口誠元国連大使・元岩手県立大学学長に聞いた。陪席は日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・名古屋市立大学特任教授の中川十郎氏。話は谷口氏と親交がありノーベル賞候補だった2人の傑物、三島由紀夫氏と森嶋通夫氏にまでおよんだ。

元国連大使・元岩手県立大学学長 谷口誠 氏

三島氏のシナリオに今も振り回されている

 ――三島由紀夫氏が憲法改正を求めて自衛隊の決起をよびかけ、割腹自殺した「三島事件」についてはどのような印象をおもちでしょうか。

 谷口誠氏(以下、谷口) 三島由紀夫氏は自決前夜(1970年11月24日)に、毎日新聞とNHKの記者に電話をかけ、「楯の会」事務所に明日午前8時30分にきて、関係者から封筒を受け取ってほしいと伝えています。そして、自分が午前9時までに帰って来ない場合に限って封筒を開けてほしいといったそうです。

 2人とも意味がわからないまま市ヶ谷に行くのですが、その直後、自衛隊市ヶ谷駐屯地から上がる喚声を聞いて初めて事の次第を知ったとのことです。三島氏が毎日新聞とNHKの記者を「楯の会」事務所に呼んだのは、自決の真意を新聞と公共放送によって伝えようとした極めて冷静で計画性のある行動だったとみられています。

 おもしろい話があります。三島氏は、本を読んだ後や芝居を観た後に、「なぜ、あの主人公はあの場面で自殺しなければならなかったのか」がすぐに100%わかってしまうような作品はおもしろくないと話していました。「読者に、観劇者に、疑問をもたせ、自分で考えさせたい」というのがその理由です。

 三島氏の壮絶な自決から約50年経った今も、私たちは「なぜ三島由紀夫氏は自決したのか」を真剣に考えています。それが、三島氏が「死後に成長する作家」といわれるゆえんであり、もしかしたら私たちは今なお、三島氏のシナリオに振り回されているのかもしれません。

中川 十郎 氏
中川 十郎 氏

 中川十郎氏(以下、中川) 三島氏のインドに関する話は、なんとなくわかる気がします。私は商社時代に約5年間、インドに駐在しました。インドでは、生活においてもビジネスにおいても、とくに知識人には「哲学」や「輪廻思想」を強く感じました。またカースト制度などで貧富の差はとても大きいのですが、「現世では恵まれなくても来世はきっとよくなる」という考え方が浸透していて、最下層の人たちも思っていたほど悲観していませんでした。

 私はヒマラヤの上空を飛行機で回ったことがあります。一面雪で覆われたヒマラヤは神々しく、人知を超えたものを感じ、俗世界の考えなどすっ飛んでしまいました。これがインド哲学の源流になっているのではないかとも思いました。

 私の高校の後輩に某航空会社のパイロットがいました。彼は何度もヒマラヤ上空を飛んでいるうちに、ある日突然、人知を超えたものにうたれ、また宇宙を感じ、パイロットを辞めて国学院大学の神学科に入り直したのです。今では神職となっています。同窓会に彼はいつも神職姿で出席しています。

(つづく)

【聞き手・文:金木 亮憲】


<プロフィール>

谷口 誠 氏谷口 誠(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学経済学部修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、在ニューヨーク日本政府国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に「21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦」(早稲田大学出版部)など多数。

中川 十郎 氏中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授など歴任。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、中国競争情報協会国際顧問、日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問など。著書多数。

(6)
(8)

関連記事