2024年04月24日( 水 )

企業倒産を追う「F-Power」~大和証券と経営陣のお家騒動の果て(後)

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 福島第一原子力発電所事故から10年。電力業界に大きなインパクトを与えたのが小売全面自由化だ。電力小売は2000年から段階的に大手電力以外にも解禁されてきたが、16年4月には家庭向けの販売も解禁。新電力は大手電力と比べ数%安い電気料金や、特典を武器に拡大。販売量ベースの新電力のシェアは2割近くまで拡大した。電力の小売事業者の登録者数は、16年4月の291社から今年4月25日時点で716社と2.5倍に増えた。競争激化により経営の悪化が予想され、これから淘汰・再編が始まる

債務超過解消のため大幅に減資

 (株)F-Power(Fパワー)は、バイオマス発電などを手がけるファーストエスコ(現・エフオン、東証一部上場)の電力小売事業を分割して09年4月に設立。新電力事業に参入した当初から、エネルギー分野に特化したファンド運営会社の(株)IDIインフラストラクチャーズ(東京都港区、以下、IDIインフラ)が出資していた。

 Fパワーは18年6月期に120億円の最終赤字に転落。18年7月、鈴木順子社長が退任し、会長・埼玉浩史氏が会長兼社長に就いた。沖隆氏との2人代表制となる。埼玉氏は日本興業銀行(現・みずほ銀行)出身で、Fパワーの株主であるIDIグループを率いる。

 19年6月期も184億円の最終赤字。2期連続の最終赤字で、約80億円の債務超過に陥った。債務超過を解消するために、大幅な減資を行った。19年6月期に77億円あった資本金は5,000万円に減資した。

 FパワーにはIDIインフラのほか、大和証券グループ本社が投資子会社の大和PIパートナーズを通じて資本参加している。お家騒動は、Fパワー大株主であるIDIインフラで起こった。

大株主・IDIインフラでお家騒動

電力供給 イメージ IDIインフラでトップの交代劇が起きた。20年10月30日の取締役会で埼玉浩史氏が代表取締役社長を解職され、大和証券グループ本社常務執行役員・荒木秀輝氏が後任の社長に就任した。荒木氏は、再生可能エネルギーやインフラ分野への投資を目的に18年10月に事業を開始した大和エナジー・インフラの社長を務めていた。

 IDIインフラには、インダストリアル・ディシジョンズ(IDI)と大和証券グループ本社が、それぞれ50%出資している。大和側の役員が、埼玉氏の善管注意義務違反などを理由とした緊急動議で社長を解職した。

 それぞれの関係を整理してみる。03年、日本初のエネルギー分野に特化したコンサルティング会社のIDI設立。06年、国内初のエネルギーインフラファンドを組成。07年にIDIインフラ設立。電力小売が全面自由化された16年に、大和証券グループ本社がIDIインフラの増資を引き受けて経営に参画した。

 この間、09年に設立したFパワーに、IDIインフラが投資して大株主になった。Fパワーの大株主であるIDIインフラでお家騒動が勃発。社長を解職された埼玉氏らが大和証券グループ本社を提訴し、内紛は泥沼化した。

会社更生法で大和証券に逆襲

 会員制情報誌『選択』(21年4月号)は、「大和証券『SDGs』の大嘘-『石炭火力発電』事業で悪行三昧」と題した記事を掲載。そのなかで、抗争の顛末をこう報じた。

 「IDIインフラ社長の荒木は二月二十六日、ファンド傘下の投資組合が七三%超出資する新電力大手、Fパワーを訪れ、社長・埼玉に辞任勧告を突きつけた…(略)…経営責任は埼玉1人に追わせて追放し、その後、ファンドは解散、Fパワーは大和のグループ力に物を言わせて売り飛ばせば、大和本体の業績に何ら影響はない」。

 前述したとおり、Fパワーは債務超過に陥った。だが、大和証券本体と連結していないため、切り捨てれば影響が出ないと踏んだわけである。その後の動きは、多くのメディアで取り上げられてきたとおりだ。

 3月31日のFパワー臨時株主総会で埼玉氏の退任を目論んでいたが、先手を打ってFパワーは同24日、東京地裁へ会社更生法の適用を申請。同30日に更生手続き開始決定を受けた。当然、大和証券は寝耳に水だった。

 管財人には富永浩明弁護士を選任。更生手続きの過程でFパワーの経営権や財産は処分され、株主の権利は消滅する。管財人が新たなスポンサーを選び、新体制の下で事業を続けることができるようになる。

 会社更生法の適用を申請したFパワーの埼玉浩史社長は、「熟慮に熟慮を重ねて経営判断した」とコメントした。大和証券側に経営権を渡さないために、会社更生法という切り札を切った、ということだ。Fパワーの大和証券に対する逆襲劇であった。

(了)

【森村 和男】

(前)

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