【BIS論壇】国家情報局創設

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は8月2日の記事を紹介する。

 高市政権の「国家情報局」が7月31日発足した。1980年代後半に商社のNY駐在時代以来、40年以上インテリジェンス、とくにビジネスインテリジェンス(経済経営情報)を研究している筆者としては、今回の国家情報局創設は拙速すぎるのではないかと危惧している。

 国家情報局設置の目的が今ひとつ見えてこない。十分な準備と研究もなく、性急に国家情報局を設置する目的は何なのか。一部の有識者やメディアは、高市政権の主目的は「スパイ防止法」が主体だという見方もしている。もし、これが事実なら大問題だ。

 今回の国家情報局設置では、スパイ防止法の法整備も検討するという。AI、半導体、量子技術など先端技術情報の流出防止なども検討されるという。

 国家情報局はわずか700人規模で外交・安全保障政策の司令塔である国家安全保障局(NSS)と同格に位置づけるという。

 初代局長には警察庁出身で内閣情報官を務めた原和也氏が就任。国家情報会議(議長・高市早苗首相)の事務局の役目をはたすという。筆者が共訳した『グローバル企業の情報組織戦略』(エルコ 1996年刊)の著者 Benjamin Giladは、ラトガース大学大学院経営学助教授で、元イスラエル警察インテリジェンス部門責任者であった。彼はその後も数多くのインテリジェンス関連論文や著書を刊行している。

 警察官僚であった原氏が、はたしてどれだけのインテリジェンス専門家であるか不明だが、日本の初代国家情報局長として軍事、経済安全保障、経済情報(ビジネスインテリジェンス) などに精通しているかも不明だ。米国CIAが人員2万人を擁し、年間数兆円の予算を基に国際的な諜報活動を行っている現状から、新設された日本の国家情報局は、米国CIA、英国MI6、イスラエルMOSSAD、韓国KCIA、ロシアSVR、さらに国際スパイ衛星を活用したアングロサクソン5カ国(米国、英国、豪州、ニュージーランド、カナダ)のECHELON諜報組織などに対抗するためにも、まず少人数の700人の担当者のインテリジェンス教育に注力することこそ肝要である。

 とくに経済スパイ防止に関しては、クリントン政権時代の96年に設立された「経済スパイ防止法」を日本は参考にすべきだ。さらに国家情報局が注力すべきは経済情報(ビジネスインテリジェンス)の収集活用に全力を尽くすことだ。情報先進国フランスの軍事諜報学校長ザクロス大将は「経済情報は冷戦後の武器になった」と喝破。米国CIA長官ターナー海軍提督は「経済情報が国防情報よりも米国の国防と国家安全保障にとって、より重要になる」と予言した。BIS35周年記念として近く刊行される『情報をインテリジェンスに変える力』(高橋文行、中川十郎共著)をぜひ活用されることを期待したい。


<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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