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2021年06月09日 14:46

角栄逮捕から45年、ロッキード事件とは何だったのか(前)

小説家 真山 仁

 田中角栄の逮捕から7月27日で45年になるロッキード事件。近年は角栄ブームが起こり、逮捕の背景に陰謀の存在を疑う声も根強いが、あの事件は結局何だったのか。多数の関係者を取材し、事件を再検証したノンフィクション『ロッキード』(文藝春秋)が話題の小説家・真山仁氏に話を聞いた。

<ロッキード事件>
 政治家の田中角栄が1976年7月、総理大臣在任中に丸紅を通じ、米国の航空機メーカー・ロッキードから5億円を受け取った容疑で逮捕され、同社の航空機購入を全日空に働きかけた容疑も加えて起訴された事件。角栄は無実を訴えながら裁判で1、2審ともに有罪とされ、最高裁に上告中に死亡し、公訴棄却となった。

世に伝わる角栄像には脚色された話も多い

 ――なぜ今、ロッキード事件について書こうと思ったのですか?

©ホンゴユウジ
©ホンゴユウジ

 真山仁氏(以下、真山) 平成の30年は「失われた30年」でした。昭和に始まったバブルが崩壊し、その後始末をしないといけなかったからです。しかし、その昭和がどんな時代だったかはほとんど総括できていません。政治や経済を巻き込んだ大きな事件を検証することで、昭和を考え直したいと思っていました。そして頭に浮かんだのがロッキード事件でした。

 ――小説として書くことは考えなかったのですか?

 真山 ロッキード事件にはすでに膨大な証言、資料があるので、小説で書くのは「逃げ」だと思いました。この事件を書くなら、ノンフィクションしかあり得ませんでした。

 ――著書では、事件の検証以前に事件のあらましも詳細に書かれていますね。

 真山 ロッキード事件について正確に知っている人は意外と少ないためです。たとえば、角栄が逮捕されたのは金脈問題で総理大臣を辞めた後ですが、そうではなく、総理大臣だったときに逮捕されたと思っている人が多い。そういう状態で、この事件のこの事実はこういうことだったと説明しても、読者にわかってもらえません。まずはどういう事件だったかを詳しく書く必要がありました。

 ――角栄に関する記述も人物評伝のように詳細ですね。

 真山 角栄は「金権政治家」の代名詞のように言われています。しかし、世に伝わる角栄像には脚色されたような話も多いのです。

 角栄の生い立ちや政治家になった経緯、政治家としての実績など事実をきちんと踏まえたうえで、本当に「金権政治家」や「闇将軍」と呼ばれるべき存在だったのかを検証しないといけないと考えたのです。資料を読み込むだけでなく、週刊文春での連載当時は角栄の生家を訪れて取材もしました。

「角栄=悪い人」であれば、溜飲が下がる雰囲気だった

 ――著書では、最高裁が刑事免責を約束し、米国の裁判所で米国の検事が行ったロッキードの副会長コーチャンへの嘱託尋問をはじめ、捜査や裁判の問題が数多く指摘されています。これらの問題は当時、なぜまかり通ったのでしょうか?

 真山 当時の三木武夫政権は角栄を批判するほど支持率が上がる状況で、主任検事だった東京地検特捜部の吉永祐介さんは上昇志向が強く、米国も日本の検察に協力的でした。角栄は不運が重なったのです。そもそも、角栄が金脈問題で総理大臣を辞めていなければ、あるいは、ロッキードと関わりのあったニクソンがウォーターゲート事件で米国大統領を辞任していなければ、あんなことは起きなかったでしょう。

 ただ、何より大きかったのは、日本全体が「角栄=悪い人」であれば、溜飲が下がる雰囲気になっていたことです。

 ――元凶は世論だと?

 真山 世論は怪物なので、世論操作をした人自身が世論に逆らえなくなることがあります。たとえば、第二次世界対戦の日本がそうでした。軍部の人たちは、本当は米国に勝てると思っていないのに、「戦争するしかない」と世論を煽って戦争を始め、結局は世論に押されて戦争をやめられなくなりました。

 ロッキード事件も同じです。検察とメディアが世論を煽り、自分たちの正当性を訴えて突っ走るうちに、検察自身が止まれなくなったのです。

 ――事件の当事者の多くは鬼籍に入っていますが、「この人が存命ならば話を聞いてみたかった」と思う人はいましたか?

 真山 やはり一番は角栄です。仮に角栄が生きていて、腹を割って取材に応えてくれるまで時間を使えるならば、「一体どこで、何が原因で、自分が人身御供にされたとわかりましたか?」と聞いてみたいです。

 角栄は検察に「丸紅からワイロをもらっただろう」と追及されても、本当に何のことかわからなかったと思うのです。周りで毎日たくさんのお金が動いていた人ですから。

(つづく)

【聞き手・文:片岡 健】


<プロフィール>
真山 仁
(まやま・じん)
 1962年生まれ、大阪府出身。同志社大学法学部卒業後、新聞記者、フリーライターを経て2004年に『ハゲタカ』で小説家デビュー。以後、現代社会の歪みに鋭く切り込むエンターテインメント小説を次々に発表。近著に『標的』『シンドローム』『トリガー』『神域』など。『ロッキード』は初のノンフィクション作品。

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