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2021年08月27日 14:00

ポストコロナの名の下に 国内中小企業再編の動き(後)

 コロナ禍の影響や経営者の高齢化により、中小企業の廃業リスクが高まるなか、経済産業省は技術や人材を引き継いでいくために、M&Aを活用した規模拡大・新事業展開を後押しする「中小M&A推進計画」を取りまとめた。今後は銀行法改正による外資誘引も相まって、国内中小企業再編の動きが加速すると予想される。

銀行は融資から出資へ

 それでは、中小M&Aの買い手はどこにいるのか。今年5月19日、銀行の業務範囲の大幅拡大を認めた改正銀行法が、参院本会議で賛成多数で成立した。これにより銀行本体で営むことが可能な業務に、「銀行業の経営資源を主として活用して営むデジタル化や、地方創生など持続可能な社会の構築に資する業務」を追加。銀行の子会社・兄弟会社には、「フィンテック企業に加え、地方創生などに資する業務を営む会社」が追加された。

 法改正のポイントは、銀行が本業以外に手を出して経営が悪化した際に顧客や預金者に悪影響をもたらすことを懸念し、その業務範囲を厳しく制限してきた方策を転換したこと。そして、銀行による事業会社への出資を原則5%としてきた規制が緩和され、地域経済に寄与する非上場企業に対して100%出資が可能となったことである。これまで融資によって企業と共存してきた銀行が、案件によっては出資による企業支配に踏み出すことになり、今回の法改正は国内の産業構造を変えるだけのインパクトがあるといえる。

 また、改正銀行法と同時に、海外当局に登録済みで運用実績がある海外の投資ファンドが日本に参入しやすくなるように、登録手続きを簡素化する改正金融商品取引法も国会で可決、成立した。外資誘引による国内金融取引の活性化は、2000年代の外資系ファンドによる国内不良債権処理を彷彿させる。

出典:中小企業白書(2021年)
出典:中小企業白書(2021年)

地方に外資系1万社

 コロナ禍の収束が見えず、東京オリンピック開催の是非が問われていた6月22日、政府は海外の企業経営者や経営幹部らの国内受け入れを増やし、30年に約20万人にする目標を発表した。地方活性化を視野に外資系企業の誘致を促し、現在は東京や大都市圏に集中する外資系企業の日本法人本社の地方誘致を進め、東京以外に拠点を置く企業の数を26年に1万社と16年の4,200社の2倍強に引き上げるとしている。

 政府は、対日直接投資の残高を30年に20年実績の2倍に当たる80兆円とする方針。経営層をはじめ、高い技術やノウハウをもった外国人人材の受け入れを増やし、投資を呼び込みやすい環境を整える構えだ。地方に1万社を置くという目標に向けて、地元企業と外資系企業による共同開発、共同事業を後押しするとしており、法人の新設時にオンラインで在留申請ができる仕組みなどを検討し、日本に進出しやすい環境整備を進めている。

ゴールドマン・サックスが銀行業で営業免許

 金融庁は7月7日、銀行法第4条第1項の規定に基づき、ゴールドマン・サックス・バンクUSA東京支店に銀行業の営業免許を付与した。取り扱い業務は、本店その他海外支店業務の媒介業務、法人顧客向け銀行業務など。支店代表者はゴールドマン・サックス証券(株)マネージング・ディレクターの江原正弘氏で、営業開始は今年9月を予定している。

 海外の金融資本を呼び込むことで日本市場の強化を図りたいとする改正銀行法では、銀行が顧客データを活用して共有することが可能になる。これまでにも銀行は顧客データを活用し、銀行・信託・証券・保険など金融サービスの経済圏を構築してきたが、今回の改正銀行法により金融以外のさまざまな産業や属性の顧客間の商流や金の流れを紐付けて、拡大することが可能となった。そうした背景を考えれば、ゴールドマン・サックスは優良顧客情報をもつ邦銀と連携し、国内中小企業M&Aに関与するとみられる。

コロナ禍の収束が中小企業再編の始まり

 ゴールドマン・サックスはこれまで証券会社として日本国内で業務を遂行してきたが、今回新たに銀行業の営業免許を取得したことで「貸金業」を営むことができるようになる。銀行法が改正され、中小M&A推進策の整備が進むなかで、日本に上陸する国際金融資本の狙いは、中小企業M&A市場での収益獲得にあることは間違いない。

 米独立系投資銀行のフーリハン・ローキーは8月3日、新型コロナ収束後に日本企業のM&Aが増加するとみて、M&A助言のGCAを買収すると発表した。GCAは半導体やソフトウェアなどハイテク系分野で日本企業とのつながりをもつ東証一部上場企業。米国でM&A助言件数首位のフーリハンの傘下に入ることで、日本企業の米国でのM&A助言などを増やすことが狙いとみられる。

 そもそも、銀行による顧客データの活用がビジネス構築で圧倒的な優位性をもたらすことや道義的な是非すら問われないのは、政府主導によるこれらの政策がすべて「ポストコロナの日本経済の回復・再生のため」という大義で押し通されているからだ。

 改正銀行法について、国会質疑で野党議員が「外国銀行が我が国の魅力ある中小企業を乗っ取ることが可能になるということを意味する」と懸念を示したが、報道されることもなく、「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化および安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律」として成立した。

 「想像以上にコロナ禍の影響は限定的である」にもかかわらず、中小企業の存続にまで踏み込んだ政策を押し通す日本政府の真の目的が、国内経済の持続的成長の確保であるのかどうかは定かでない。しかし、これらの政策が中小企業を取り巻く経営環境を一変させることだけは間違いなく、コロナ収束の合図が中小企業再編の始まりとなることを想定しておきたい。

(了)

【児玉 崇】

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