2024年04月20日( 土 )

「パークサンリヤン大橋」損害賠償訴訟~仲盛氏の所感

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(協)ASIO 理事長 仲盛 昭二 氏

パークサンリヤン大橋
パークサンリヤン大橋全景

 分譲マンション「パークサンリヤン大橋」の耐震強度不足・建築基準法令違反をめぐる損害賠償訴訟で、福岡地方裁判所は13日、原告区分所有者の請求を棄却する旨の判決を言い渡しました。この判決について、原告の技術支援に携わった立場として所感を述べてみます。

 判決では、被告設計業者の主張に沿った裁判所の見解が示されているものの、原告側の主張を完全否定はしておらず、「認めるに足りない」「規定の適用を左右する事情とはいえない」「規定の適用は制限は予定されていない」などという表現にとどまっています。

 被告の西鉄がまったく反論をせず、被告設計業者が争点に関係のないことをメインに持ち出して主張したにもかかわらず、このような判決となった理由は、被告が賠償金を支払うという判決となった場合、全国のSRC造のマンションに波及する恐れがあるからだと推察します。

 社会的混乱を回避したいと裁判所が考えることは理解できなくもありませんが、「小を殺して大を生かす」的な判決は究極のトリアージだといえます。

 この判決のように、法令に明確に規定されていない事項については、諸規準や文献に記載されていても、技術者の見解が分かれるものとして、裁判所が判断すべき範疇ではないという理屈だと思います。

 現在の建築確認や構造計算適合性判定においては、法令規準以外にさまざまな文献に記載された設計方法や(一財)建築行政情報センターのQ&Aなどに従った構造設計が行われていなければ、設計図書の補正を指示されます。この建築確認制度を否定した判決は、建築確認制度の崩壊を意味します。

 今回の判決のように、「法令に明確に規定されていなければ設計者の裁量の範囲内」なのであれば、建築確認や適合性判定での指摘は撤廃すべきです。これらの指摘や指導により、建築主は建築コストの割り増しを強いられているのです。

 今回のマンションの1階鉄骨柱は埋め込み型でしたが、判決では「非埋め込み柱脚に曲げ降伏が発生する場合はRC造としてDsを算定する」と技術基準解説書に明記された非埋め込み柱脚(ピン柱脚)については肯定しています。

 従って、非埋め込み柱脚のケースでSRC造のDsにより構造計算が行われている場合は、法令規準違反の建物であることを裁判所が認めたことになりますので、非埋め込み柱脚の建物について技術支援できる機会があれば、堂々と当方の理論を主張したいと考えています。

 この裁判の争点は、「張間方向(耐震壁方向)に有効な鉄骨が存在しない柱の構造特性係数(Ds)」でしたが、判決には「桁行方向の保有水平耐力計算の際に本件Dsを適用できないと認めるに足りない」と記載されており、争点と直交する方向(争点でない方の方向)についてのみ「認めるに足りない」としており、争点である張間方向については触れていません。争点に触れていない判決は不当な判決であり、争点について適切に審理していただくべく控訴すべきと、私は考えています。

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