2022年08月18日( 木 )
by データ・マックス

緊縮思想に支配される日本 政府支出を拡大せよ(後)

京都大学大学院工学研究科 教授 藤井 聡 氏

 今の日本には、「政治的決断」がない。「国の『借金』を増やすべきでない」と何の判断もなく緊縮財政を続け、消費増税と支出削減を行ったことが経済低迷を生み出した。コロナ禍の日本を立て直すために必要なのは、一見正しそうな緊縮財政ではなく、プライマリーバランス(PB)黒字化目標を凍結して国債を積極的に発行し、消費税の凍結、粗利補償を行うことだ。

財務省で検討される「コロナ増税」

京都大学大学院工学研究科 教授 藤井 聡 氏
京都大学大学院工学研究科
教授 藤井 聡 氏

 この引きこもり児は、家庭がどうなろうと知ったことではないという無責任な塊を持つ存在だ。そのため、家庭が壊滅的な状態になって、収入が少なくなったときに考えるのは、「家庭を豊かにしよう」ということではない。何と言っても政治=家庭を何とかするという行為をしないのが、今の日本人であり、日本政府だ。今の日本政府が考えるのは、単に部屋の外にある家のなかからさまざまなものをさらに盗み取ることだけだ。

 このようにして日本政府は、自分の収入が少なくなればなるほど、さらに消費増税をすることになる。完全な自滅パターンに陥っているのが、今の日本政府であり、日本である。ここまでで、日本が置かれている状況を戯画的に描写したが、とにかく「政治的な決断や実践をしない」という緊縮思想に完全に支配され、増税と支出削減しかできなくなっている。その結果、日本は消費税を増税してデフレになり、デフレ脱却のために支出拡大ができず、デフレを継続させる。加えて、コロナ禍であっても、支出拡大もできず、それどころかデフレを加速する「コロナ増税」までもが真面目に検討されている、という状況だ。

 今、緊急的に拡大すべき支出は、第1にコロナ対応のための医療供給力の増強。第2に、コロナ禍で生じた経済被害を「復旧」するための緊急的財政出動だ。これは、コロナ禍脱却までの期間の消費税の減税ないしは凍結、ならびに法人における損失補償。以上に加えて、防災・国土強靱化投資、地方活性化投資、科学技術・教育投資を進めることで内需を拡大し、コロナ禍による経済を不況から成長軌道に乗せることが必要だ。おそらく、このような批判が国民の間で拡大しない限り、地獄のような最悪状況に遅かれ早かれ落ちていくに違いない。

PB目標の凍結が必須

菅義偉首相(出典:首相官邸ホームページ 菅内閣総理大臣記者会見2021年6月24日より)
菅義偉首相
(出典:首相官邸ホームページ
菅内閣総理大臣記者会見2021年6月24日より)

 日本経済を立て直すためには、まずPB目標凍結が必須だ。これがない限り、減税も支出拡大もできないからだ。財務省がPB黒字化堅持を組織的な最重要目標に掲げているためであり、PB黒字化が堅持されさえすれば、財務省が絶対的目標とする国債発行額の縮小が実現できる。従って、財務省は何をおいてもPB黒字化目標を閣議決定することに向けてあらゆる調整、ロビー活動を長年働き続けてきた結果、骨太方針にPB黒字化目標の堅持という記述が復活した。

 財務省はそれを実現するために、菅総理、自民党税制調査会を中心とした幹部への徹底レクチャーと、PB復活を明記した政府提案の取りまとめを彼らに徹底的に図り、同時に、経済財政諮問会議の民間議員提案にPB復活を明記させる調整を図り実現させた。PB復活が極めて必要であるという報道をマスコミで行うための調整を図り、それらをことごとく実現させてきた結果、PB黒字化明記が実現する運びとなったわけだ。

 こうした流れのなか、PB目標凍結を実現するためには、総理大臣を変える以外の道は考えられない。菅総理は官房長官時代から、PB目標を明記する方針を堅持し続けてきた。むしろ安倍総理がPB目標について否定的な政治見解をもっていたにもかかわらず、財務省との連携を通した安定政権の実現のためにPB目標を堅持し続けたほどである。菅政権が続く限りPB目標凍結が実現する可能性は限りなくゼロであると予期されるため、PB目標凍結を明確な政治的目標に掲げた政治家が総理大臣になる状況が必要だ。与党では、今年の総裁選でそうした政治家が勝利することが必須となり、それができないなら、PB凍結を掲げた野党による政権交代が必要だ。

 次に、消費税の凍結が必要だ。これで、消費が大いに活性化される。そのうえで、傷付いた国民経済を立て直すために、粗利補償が必須だ。これは一昨年から昨年にかけての各法人の利益の損失分を、国家が国債を発行して財源を調達することで補償する。これができれば、法人が支払うべき家賃などの固定費がまかなえるだけでなく、従業員の給料を完全に補償することも可能となる。ただし、粗利補償制度が不十分である場合や賃金だけでは生活が保証されない個人もいること、加えて景気刺激策の視点から、10万円の一律給付を数カ月続けることも効果的だ。

 最後に、コロナに対応する供給力をはじめとした防災対策、地方創生などの中長期的な成長の確保、または経済衰退の抑制のための投資を行うことが必要だ。防災対策としては、南海トラフ地震、首都圏直下地震、三大港湾高潮、大都市圏大河川が必須だ。

 地方投資としては、全国の高速道路のミッシングリンクの整備に加えて、全国の新幹線整備計画の抜本的な加速、具体的には、北陸新幹線の早期大阪接続、北海道新幹線の早期札幌接続、西九州新幹線(長崎新幹線)の早期全線整備、大阪と関空をつなぐ関空新幹線を四国新幹線の一部としての早期整備、岡山から高松、そして愛媛につながる四国新幹線の早期整備、フル規格の山形新幹線の早期整備、白眉新幹線の早期整備などがいずれも必要不可欠だ。
 今のままでは、中央リニア新幹線だけが早期に整備され、その結果、三大都市圏への一極集中がさらに加速するだけに終わることが火を見るより明らかであり、以上に述べた全国の新幹線整備が行われる必要がある。

(了)


<プロフィール>
藤井 聡
(ふじい・さとし)
1968年生まれ、奈良県生駒市出身。京都大学工学部土木工学科卒。93年京都大学大学院工学研究科修士課程土木工学専攻修了。93年京都大学工学部助手、98年に京都大学博士(工学)取得。2000年京都大学大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年東京工業大学大学院理工学研究科教授を経て、09年に京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授に就任した。11年京都大学レジリエンス研究ユニット長、12年に京都大学理事補、内閣官房参与を歴任。『表現者クライテリオン』編集長。

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