2024年05月16日( 木 )

“今”を生きていますか? ジャパネットたかた創業者が特別講演(後)

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(株)A and Live 代表取締役 高田 明 氏

 信金中央金庫は8月26日と27日、創業支援プラットフォーム「しんきん創業の扉」の公開を記念し、特別講演を開催した。講演は(株)システムソフトが運営するコワーキングスペース事業fabbitの全面協力の下、YouTubeでライブ配信された。初日は(株)ジャパネットたかたの創業者で、(株)A and Live代表取締役高田明氏が講演。コロナ禍の長期化、近年続く自然災害などで理不尽な苦境に立たされる経営者や、創業に燃える人へ向けて、「“今”を本気で生きているか」と実体験を踏まえながら問いかけた。高田氏の講演内容を紹介する。

企業の存在と継続に必要不可欠なこと

 人生と同じで企業にとって大切なことはMission(ミッション)です。これは事業継承のときにも重要な役割をはたします。私は事業承継をするときに、何のために企業経営をしているのか、何ができるのかを強く求めました。誰のために企業があるのかを考えること、これは自分のためではなく、社会の公器です。このようなミッションなくして企業は継続していきませんし、一番大事だと思います。

 そしてミッションをはたすためのPassion(パッション)が必要です。今を生きて、一生懸命に困難を乗り越えていこうとも、情熱をもっていかなければなりません。そして、ミッション、パッションだけでは夢は実現しません。Action(アクション)が必要です。ミッションとして責務を考え、パッションをもって取り組み、アクションとして“今”を一生懸命生きていけば、必ずイメージ通りになっていくと思いますし、私はそのように実践してきました。

 そして、企業を継続していくときに必要なことがあります。これは困難にぶつかったときに、どのようにして事業を改善して進化させるかという方法論ですが、4つの項目があります。「捨てる」「残す」「加える」、そして「変える」です。

 今あるものを全部捨てる必要はありません。改善するということは、何を捨て、何を変えていくのかを選択することです。そして、何を残して、加えるかということをしっかりと考えていけば、自分の会社の状況がわかってきます。これは業種に関係ないことです。どのような業種、事業であっても、改善や修正が必要なときは考えなければならないものです。

(株)A and Live 代表取締役 高田 明 氏
(株)A and Live 代表取締役 高田 明 氏

 ここで1つ注意しなければならないことがあります。それは、残すべきものを捨てるという間違いです。間違ったものを捨ててしまえば、逆に遠回りしてしまいます。だからこそ間違わないために、何が必要かについてストイックに徹底した議論をするしかありません。これでもかといわれるほどの議論によって詰めていくことです。

 自分の会社が強みや弱みを再認識し、何を変えるべきかを議論して、それを加えていくことです。それでうまくいかなかったら、また挑戦することです。これを2回、3回と繰り返して階段を上っていくことが、自分の会社が進化する、自分が成長する道であると思います。

やさしく伝える力

 最後に「伝える力」について話します。多くの企業がすばらしい事業をされていると思います。しかし、その事業の魅力やすばらしさをしっかりと伝えることはできているでしょうか。もしかしたら、伝えたつもりになっていませんか。伝わったことと、伝えたということはまったく別です。チラシやHPなどの広告に力を入れても売上にならないというときは、伝えたつもりになっていることがほとんどです。

 私がラジオショッピングをしているときに、売れるときや売れないときがありました。10回、20回、100回と繰り返している間に結果として残り、経験になります。商品のせいにしてはいけません。なぜ伝わっていないのかということを一生懸命研究して、トライアンドエラーを繰り返していきます。そして、うまくいった瞬間に注文の電話がかかってきました。いくら広告にコストをかけても伝わってなければ同じです。

 伝えるときには何が大事か。それは我見にならずに離見を意識することです。離れて見るということは、人を感じること、消費者を感じることです。業界の常識は、消費者の常識ではありません。政治家には国民、医者には患者、教育者には生徒と、伝えるときには必ず対局がありますよね。だから自分の言い分だけではなく、相手の立場を感じることができるかということが一番大事だと思います。我見でなく離見があって、初めて相手に伝わっていきます。

 そして、やさしく伝えることです。難しい言葉では伝わりません。どれだけ真面目な内容でも、難しいことを語っても消費者には届きません。話している内容がわからなかったら、いくら力を入れてメッセージを出しても、どれだけ大きなことを述べても価値観の共有ができません。宣伝するときにはわかりやすく、やさしく伝えることが非常に重要なのです。

 言葉のほかに、もう1つ大事なことがあります。それは非言語です。顔の表情や途中で入れる「間」、こういったテクニックが必要です。とくに「間」は有効です。濁流のようにしゃべっていても伝わりません。途中で「間」を挟むことで、相手にこちらがしゃべった内容を考えさせることができます。

 企業の経営者は、朝礼時などで言葉だけでいうのではなく、喜怒哀楽をしっかりと表現してください。この非言語で伝えるメッセージは、言葉で話す内容よりも大切だと考えています。

(了)

【文・構成:麓 由哉】


<PROFILE>
高田 明
(たかた・あきら)
(株)A and Live代表取締役。1948 年生まれ、長崎県平戸市出身。大阪経済大学経済学部を卒業後、機械メーカーへ就職し通訳として海外駐在を経験。74 年に父親が経営するカメラ店へ入社し、86年(株)たかたとして分離独立。90年にラジオショッピングを行ったことを機に全国にネットワークを広げ、その後、テレビやインターネットなどでの通販事業を展開。2015年に(株)ジャパネットたかた代表取締役退任後、17年にプロサッカークラブ(株)V・ファーレン長崎の経営に参画し、20年まで代表取締役社長を務めた。現在は、「今を生き生きと生きる世の中にしたい」という思いの下、取材や講演などで社会貢献のメッセージを精力的に発信している。

(中)

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