2021年12月03日( 金 )
by データ・マックス

岸田新総理に期待する大胆な発想と行動力

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年10月15日付の記事を紹介する。

国会 イメージ 岸田新総理は新型コロナウィルスの感染者数が減少傾向にあることを「追い風」に、衆議院の解散を断行しました。この決断が吉と出るか、凶となるかは、世界が注目するところです。菅総理からバトンを引き継ぎ、第100代の総理に就任した岸田元外相の下には、世界各国から祝意が寄せられました。アメリカのバイデン大統領を筆頭に、中国の習近平国家主席と李克強首相、韓国の文在寅大統領、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相らから、日本との関係の強化を願うメッセージが相次いで届いたものです。

 それだけ新政権への期待が高まっていることは間違いないでしょう。日本が直面するコロナ禍はもちろん、経済や安全保障に関する諸課題を克服するためにも、国際社会との連携は不可欠であるため、岸田新総理は主要国の首脳とも電話会談を積極的に重ねています。海外からの好意的な反応も「追い風」にしようという思いでしょう。

 今回の衆議院選挙においてとくに注目すべきは、「令和の所得倍増計画」です。アベノミクスは大企業の株価の底上げには効果があったものの、多くの国民にとっては貧富の格差を拡大させました。いわゆる「新市場主義」の弊害が日本社会全体の活力を奪ってしまったことは否定できません。そこで、岸田新総理は「富の再分配」を実現するための「新たな日本的な資本主義の道」を目指すと宣言しています。

 問題はその理想を実現するための具体的な手段と道筋です。日本には1,072兆円もの個人が所有する現金と銀行預金が眠っています。企業の内部留保も484兆円を超えているほどです。こうした眠れる資金をどう覚醒させ、新たな産業やサービスに投入するか、「未来への投資ビジョン」が求められます。と同時に、気を付けなければならないのは、日本国の財政赤字は1,600兆円に達しているという厳しい現実です。

 バブル期のような大盤振る舞いはもはやできません。日本人の生活を真に豊かにするにはどうすれば良いのか、真剣な議論と健全な発想がなければ、すべては「絵に描いた餅」になってしまうはずです。外務大臣として5年近くの経験を持つ岸田新総理であればこそ、日本の復活にとって海外との協力が欠かせないことは百も承知のはず。

 その観点でいえば、日本のみならずアジアも世界も懸念しているのは「米中対立の行方」です。中国からの挑戦を受け、バイデン政権では対中戦略を強化する動きを鮮明に打ち出していますが、「アメリカの国益にかなう場合には、中国との協調も必要になる」との柔軟な姿勢も見せています。具体的には、環境問題、なかでも、地球温暖化対策に中国の関与が不可欠との認識です。

 このような時こそ、米中の対話と信頼関係の構築が求められます。日本にとってアメリカは安全保障の面では最大の同盟国ですが、経済通商の面では中国が最大のパートナーです。アメリカとも中国ともバランスのとれた関係を維持、発展させなければ、日本の未来はあり得ません。

 2022年は日中国交正常化50周年という記念すべき年です。このチャンスを活かさない手はないでしょう。中国からも日本との関係改善を求めるメッセージが相次いでいます。はたして、岸田新総理が強かな米中両国の最高指導者と渡り合えるかどうか、そこが気がかりです。

 いずれにせよ、日米中3カ国が協力して取り組むべき課題は山積しています。たとえば、TPP11やRCEPを最大限に活かす方策も日米中3カ国の共通のテーマになるでしょう。RCEPへの加盟を実現した中国はTPPへの参加申請手続きを始めました。バイデン政権の対応は不透明ですが、日米中が参加する巨大な経済圏が誕生することも視野に入ってきたわけです。

 もともと中国の封じ込めを意図して構想されたTPPでしたが、中国がRCEPの次のステップとしてTPPへの加盟を目指す動きを見せ始めたことで新たな局面が見えてきました。2020年の中国のGDPはアメリカの73.6%でしたが、2031年には98.7%とアメリカとほぼ同等になることが確実視されています。

 最近、台湾も中国に先駆けてTPPへの加盟申請を行いました。中国と台湾のせめぎ合いの様相が見られるわけですが、日本とすれば、お互いが「1つの中国」という大原則には同意していることに鑑み、中国と台湾が同時に加入する可能性も選択肢として検討すべきではないでしょうか。

 というのも、WTOの場合には、両者がほぼ同時に加盟したという前例もあるからです。いうまでもなく、両者とも日本にとってもアジア全体にとっても不可欠な重要なパートナーに他なりません。台湾海峡の安全と安定のためにも、両者が共存共栄できる環境を整えることは日本にとって調整のし甲斐のあるテーマでしょう。アメリカの復帰も働きかける価値があることは論を待ちません。

 なぜなら、2020年、中国の国防予算はGDPの1.15%でしたが、アメリカの場合は3.6%であり、この傾向が続けば、2031年のアメリカの国防予算は9,110億ドルに達する見込みです。これはアメリカ経済にとって大きな足かせとなります。TPPはそうした足かせを取り除くきっかけになる可能性を秘めているからです。

 軍事面での競合ではなく、経済面での協力の枠組みを構築することこそが、「ポスト・コロナ時代」を切り拓く上では最重要課題となるはずです。アメリカのランド研究所によれば、もしアメリカが中国との戦争に突入すれば、アメリカの経済は30%以上の落ち込みを余儀なくされるとのこと。しかも、アメリカが勝利する保証はないわけです。日本はアメリカの同盟国として参戦を余儀なくされれば、日本の命運も尽きかねません。

 そうした無益な軍事衝突に人命や巨額の資金を投入する意味はないに等しいもの。日本は米中両国に呼びかけ、偶発的な危機を回避するコミュニケーション・チャンネルの復活と強化を図る時です。人間の健康という新たな安全保障の在り方を模索するよう、コロナ危機は人類の共存共栄への道筋を模索するように促してくれています。

 感染症対策はもちろん、環境問題もエネルギー危機も、そして安全保障問題も、すべてが連動しているのが21世紀の世界の実態です。日米中3カ国が新たな発想で協力することが強く望まれます。広島出身で核兵器廃絶に熱意を見せる岸田新総理には世界の平和と繁栄に向けて大胆な第一歩を踏み出してもらいたいものです。

 次号「第269回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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