2022年01月25日( 火 )
by データ・マックス

ストラテジーブレティン(293号)サプライチェーン混乱とインフレの展望、日本への影響(後)

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年11月1日付の記事を紹介。

化石燃料の復讐

 ゴールドマンサックスのアナリスト ジェフ・カリー氏は、これを「オールドエコノミーの復讐」と分析している(FT10/22)。2014年末の原油急落以降顕著になったオールドエコノミー投資の抑圧が復讐を始めた、というのである。(1)株式金融市場におけるテクノロジー、ニューエコノミーへのシフト、オールドエコノミーの軽視、(2)ESG投資、グリーンエネルギー投資への旋回、(3)格差拡大によりエネルギー消費性向の高い低所得層の所得比率が低下してきた(=エネルギー消費比率が低下)が、今そこからの需要急反発が起き始めている。積年の投資抑制と需要のピックアップが、需給タイト化の時代を招く。新しいコモディティ・スーパーサイクルが始まっている、と主張している。

 究極的には価格上昇が需要側の行動様式を変化させる。脱炭素をすすめるためには化石燃料価格上昇は必須である。今後高コスト受容か、脱カーボン推進かの二者択一を迫られる場面が増えてくるだろう。将来、どの程度のスピードで脱カーボンを進めるのか、どこまでの石油・ガス価格の上昇が容認できるのかの敷居が決められる、それはどこまで経済が(政治的に)耐えられるか、で決まる。その過程で大きなショックが起きる可能性は十分にある。

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 このように石油、天然ガス価格の急騰に端を発する化石燃料供給不安の根は大きい。ただ原油需要自体は2021年になってもコロナ前2019年の水準を超えていない。また米国の掘削リグの稼働数から見て、増産余力はある、よって直ちに第三次の石油ショックにはならないが、石油価格高止まりの可能性は高い。

図表9: 米石油掘削リグ稼働数とWTI価格

(3) 緩慢なインフレ、日本にとってはむしろ好材料

米国は緩慢なインフレへ

 原油価格の高騰がインフレの高進に結び付き、FRBを驚かせ市場にショックを与えるといった可能性は2022年までは考えなくていいだろう。米国での物価と賃金の上昇は部分的である。図表10に見るように、賃金上昇は人手不足が顕著な運輸、レジャー分野、それも管理者を除く現場労働者に偏っている。需給ひっ迫が供給制約のある一部分野に限られ、全体としてはスラック(余剰)が存在している。専門性が極めて高い知的労働と人との密接な接触を必要とする運輸、エンタメ、介護や保育などの労働を除けば、今のような労働者側のバーゲニングパワーが長続きするとは考えにくい。

図表10: 米国セクター別実質時給推移 (全従業員・非管理職労働者)

 しかし米国での求人意欲は強い。また住宅需給がひっ迫し家賃が上昇している。これにエネルギー価格の高騰が加われば、賃金ベースの持続的上昇を引き起こす可能性はあり、米国の物価環境がデフレからインフレへ進行していることは確実である。将来その流れが加速する可能性には留意すべきである。

図表11: NFIB 求人の未充足率と失業率

供給制約・マイルドインフレは日本経済と株式に相対的に有利

 上述のインフレ環境への転換は、デフレで傷ついてきた日本にとっては有利である。また日本の製造業は、再生可能エネルギーで各国の後塵を拝しているが、石炭石油を省エネ、省カーボンにする技術に優れている。ハイブリッド車では圧倒的に強い。あとしばらく続くカーボンエネルギーとグリーンエネルギーの併存時代、カーボンエネルギー高価格の時代においては、商機も多いだろう。

 緩やかなインフレ傾向=ドル高は日本経済と日本株式に有利になる。世界的株式物色の流れが日本株にシフトするかもしれない。世界的にはハイテク株中心のグロース株から、資源株を含むバリュー株(オールドエコノミー株)へのシフトが進行するだろう。高カーボンエネルギー価格は資源利権を多く保有する日本の商社株のバリュエーションにもプラスとなるだろう。

(了)

(中)

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