2024年04月26日( 金 )

衰え続ける日本、根本的問題はどこにあるのか~政治と教育(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 失われた10年(1990年初頭から2000年初頭)は、もはや「失われた30年」になろうとしている。いざなみ景気など景気向上の時期がありながらも、かつての経済大国日本は過去の栄光にすがりつくしかなく、驚異的躍進を遂げた中国に圧倒的な差をつけられた。そして、リーマン・ショックや新型コロナウイルス蔓延を理由に、日本は根本的解決から目を反らす、いわば他責とし、みるみる衰退の一途をたどっている。
 では、日本衰退の根幹はどこにあるのだろうか。OECD(経済協力開発機構)で日本人初の事務次長を務めたことのある谷口誠元国連大使・元岩手県立大学学長。日本有数の大手商社マンとして世界を駆けめぐり、現在、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、名古屋市立大学特任教授などを務める中川十郎氏。2人が行き着いた答えの1つは、「教育」の在り方と向き合い方であった。

(聞き手・構成 麓由哉)

中川十郎氏(左)、谷口誠氏(右)
中川十郎氏(左)、谷口誠氏(右)

世界が見る「日本」の現状

 谷口誠氏(以下、谷口) 戦後の日本は、国民の結束した努力により立ち上がり、1964年には、東京オリンピックを開催し、アジア唯一の先進国としてOECD に参加することができました。そのおかげで私はOECDのアジア初代の事務次長を7年間務めることができました。しかし、その後の日本は、その地位に満足し、改革を怠り、世界の変化に対応できなくなりつつあります。

 確かに、戦後の日本の経済復興はすばらしいものがありました。当時 の代表的エコノミストであった大来左武郎、都留重人、大原総一郎、脇村儀太郎たちが中心となって、戦後の復興計画を作成していました。当時、まだ若く外務省に入ったばかりの私も軽井沢での彼らの会議を傍聴させていただき、心が高揚したのをおぼえています。その当時の日本のエコノミストのなかには、このまま日本の経済成長が続けば、日本のGNPは、米国のGNPを追い越すのでは、と議論するエコノミストもいました。しかし、これは思い上がりも甚だしいもので、国土が大 きく、資源の豊富な米国と小さな島国の日本は比較すべくもないと思います。私はこれをGNP神話と名付けています。

 しかし、急速な経済発展は永久に続くものではなく、徐々に低下するのが、自然の習わしです。卒直にいって日本は戦後の発展に安住して、世界の急激な変化に対応できず、その後の改革を怠ってきたきらいがあります。

 中川十郎氏(以下、中川氏)  先日開催された(株)経世論研究所所長・三橋貴明氏の講演によると、日本の実質賃金の指標は1996年を115とすると2015年に100、20年には99に低下し続けている状況とのことで驚きました。

 一方、主要国の18年のGDPは韓国、豪州が01年比2.5倍強。米国、英国、カナダが同2倍弱。フランス、ドイツが同1.5倍弱。日本のみ同1倍強と、長期低迷していることが明白です。10年に日本を抜いた中国のGDPは、19年には日本の3倍の1,500兆ドル、米国のGDPは2,000兆ドルを超えました。30年までには中国が米国を抜き、インドが日本を抜き去るとの見方が有力視されています。日本は、コロナ対策、IT・AIなどの技術進歩、産業推進力、外交などさまざまな面で、アジア諸外国に遅れをとり続けています。このままではアジアでの衰える老大国「年老いたゴールドメタリスト」(『ファクトで読む 米中新冷戦とアフター・コロナ』近藤大介著、講談社現代新書 )としての見方が確立してしまうのではないかと危惧しています。

 谷口氏 日本が胡坐をかいている間、アジアの中国、インド、インドネシアなどの人口大国が発展、日本一強時代は終わり、中国一強時代に変わりました。最近の OECDの未来予測では、2060年には、GNPの規模では、中国、インド、インドネシアなどが、米国に伍して大国化することになります。そして日本、英国、フランス、ドイツなどはGNPではmiddle powerとなるとされています。その場合、日本はどのような国家を目指すべきでしょうか。

 米国の有名な投資家で知られるJim Rogersは、1986年に世界第二位の経済大国になって日本は、50年以上の長きにわたって繁栄してきたが、現在日本が直面している人口減少と日本が抱えている多額の債務の問題の重要性に目を背けているため2、30年後には大変な問題になると予告しています。 私も日本がこのまま何の手も打たないならば、日本は衰退の一路をたどる危険性があると危機感を感じています。

 現在の日本の大きな懸念の1つである人口減少も、日本衰退の大きな要因となっています。このまま人口減少が続けば、日本の人口は2040年には1億人を切り、2100年には4 000万人に減少します。日本は人材不足に悩み、5年後には34万人不足し、40年後には3人に1人が高齢者になります。これらを踏まえたうえで、私は日本再生のために、次の具体的問題提起をいたします。

  • アジアの唯一の先進国だとのエリート意識をすて、躍進するアジアの一国として、アジアとの共存、共栄をはかること。 
  • 対米一辺倒の外交政策を多角化し、アジアのみならず、日本と同じくmiddle powerであるEU諸国、英国などとの交流をはかること
  • 日本の人口減少に歯止めをかけるため、有能な外国人、とくにアジ アの人材を導入し、少なくとも日本の人口を英国、フランス、ドイツ並みの5,000~6,000万人に留めること。 
  • 大国化するアジアの中国、インド、インドネシアなどが抱える最大の問題は、人口問題と環境問題であり、この問題で多くの経験をしている先輩国である日本は、技術移転を行い、協力すること。 
  • 地震、津波、台風などの悲惨な経験をしている日本は、同じく自然災害に悩むアジア諸国に無償による人材育成と技術移転をはかる 

(つづく)

【麓 由哉】


<プロフィール>
谷口 誠
(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学経済学部修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、在ニューヨーク日本政府国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に「21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦」(早稲田大学出版部)など多数。


中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。
著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

(2)

関連記事