2022年06月27日( 月 )
by データ・マックス

小売こぼれ話(15)ドラッグストアの懸念すべき動き(後)

隠れた食の巨人

ドラッグストア イメージ    九州最大手のドラッグチェーン「ディスカウントドラッグコスモス」を展開するコスモス薬品の前期売上は7.260億円、1店舗あたりの売上は平均で6.4億円余り。そのなかで食料品が占める割合は57.4%。4.430億円になる。

 この数値で見れば、九州での食品売上は2.000億円を超える。九州最大手のスーパーマーケット、旧マックスバリューの売上を凌ぐ。さらに出店意欲も高く、そのエリアを全国に広げようとしている。

 そんなドラッグストアで今、アウトソーシングによる生鮮の導入が始まっている。従来の品ぞろえに青果や精肉、水産物の加工品が置かれるようになったのだ。近いうちに、ドラッグチェーンのスーパーマーケット化が本格化するはずだ。なぜなら、家計消費支出のうち生鮮食品が占める割合が、総菜を含めると半分近くになるからだ。

 九州のドラッグストアは十数年前から、生鮮食品の可能性を検討してきた。当時は調達や技術者、売り場設備の問題などで実現は難しかったが、生鮮売り場のスペースを確保し、アウトソーシングによって生鮮食品を導入することで、加工用のバックヤードや技術者の問題を解決した。

 商品供給を担うのは中小の生鮮卸だ。今や生鮮を除く食品販売は地方の中堅スーパーマーケットをはるかに凌ぐレベルにまで成長し、好調な経営のおかげで資金的な余裕もある。ドラッグストアは生鮮加工業者や青果・水産の仲買にとって、有望な供給対象先となっている。

 「ディスカウントドラッグコスモス」がまだ生鮮を取り扱っていなかったころ、福岡のある店舗を視察した関西の中堅スーパーのトップが放ったのは、「生鮮を加えればスーパーじゃないか」という一言だった。ドラッグストアといえば薬品という固定観念がひっくり返ったショックが、その一言に表れていた。

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 そんな日の出の勢いのドラッグストア業界でちらほら聞こえてくるのが、優越的なポジションを背景にした納入業者への過剰な要求だ。もちろん、取引交渉がシビアなものになるのは自由競争の世界では当たり前だが、時に要求を受け入れなければ取引の縮小や停止をほのめかす不当な交渉が発生する。

 かつてはダイエーをはじめとする大手スーパー、今はアマゾンや楽天などのデジタルプラットフォーマーがその優位性を前に出して、取引先に不当な要求を突き付けたとして、公正取引委員会の立ち入り検査を受けている。

 新興企業は総じてその勢いと周囲から受ける称賛によって、自らの力を過信し、慢心する。そこに生まれるのが、驕りの心だ。とくに商品調達部門は、取引先から下にも置かない扱いを受ける。ある程度の無理は当たり前になり、それがエスカレートすると一方的な要求へと姿を変える。

 そうした懸念が拡大しているのがドラッグストア業界だ。精肉の加工卸は、かつての供給先だった地方の中小スーパーのシェア縮小で、直営ショップとドラッグストアへの供給に傾斜している。

 成長著しいドラッグストアやデジタルプラットフォーマーは、かつての日本型GMSだ。その優位性を武器に取引先と交渉する。お互いの収支を基にした納得のいく交渉ならば問題はないが、買い手優位の状況下では、一方通行的な交渉になることも少なくない。

 購入頻度と家計消費支出に対する割合が大きい食品の売れ行きは、価格に左右される。卸にしてみれば、高い値入をすれば売れないからそれができない。小売側は少しでも安く売りたいから、より安い店頭価格を求める。結果として卸の利幅は小さくなる。それでも小売側が完全に買い取ってくれるなら、それなりのメリットがあるが、売れ残りのすべてを引き取るとなると、赤字を覚悟の供給となる。

 賞味期限が長く、引き取っても転売できる加工食品と違って、生鮮品はそれができない。たいていの場合、残った商品はそのままロスになる。

 既存のスーパーマーケットでは仕入れ先に生鮮品の返品はできない。一方、ドラッグストアではいまだに売れ残りのリスクを生鮮卸に押し付けている例がある。

 小売業はIT企業がリアルを買収したり、百貨店がスーパーマーケットを統合したりするなど、業態を超えた融合が進んでいる。

 高齢化と少子化の下で今後、ドラッグストア同士の合併や、異業態を傘下に入れるようなドラッグストアの業容拡大が進むのは明白である。それを踏まえると、納入競争などが不利という事情から、まともな条件交渉ができない生鮮卸の立場がいささか気になる。

 ドラッグストアがかつての日本型GMS、楽天やアマゾンなどに倣い、納入業者に不当な要求をすることはもちろん許されることではない。

(了)

【神戸 彲】

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