2024年04月20日( 土 )

「東急ハンズ」と「ロフト」売却 渋谷の変貌も影響(前)

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 「若者の街」渋谷において生活雑貨の東急ハンズとロフトは最大のライバルだが、期せずして、東急ハンズとロフトの親会社の売却話が持ち上がった。ハンズとロフトの熱狂的なファンにはショッキングな話だろう。一体、何が起きたのだろうか。

カインズが東急ハンズを買収

渋谷 雑踏 イメージ    ホームセンター最大手の(株)カインズ(本社:埼玉県本庄市、非上場)は21年12月22日、東急不動産ホールディングス(株)子会社で雑貨店販売の(株)東急ハンズ(本社:東京都新宿区)を買収すると発表した。買収額は200億円超とみられる。3月31日付で、東急ハンズはカインズの100%子会社となり、その段階で「東急」の文字が外れる。

 今年に入ってからは、小売大手の(株)セブン&アイ・ホールディングスが、傘下で百貨店事業を運営する(株)そごう・西武を売却することを決めた。2月末に1次入札を実施して候補を絞る。「物言う株主」のバリュー・アクト・キャピタル(以降、バリューアク)は、コンビニの(株)セブン-イレブン・ジャパンを中心に食品小売業に集中するよう求めた。セブン&アイはコンビニ事業に特化するため、不採算事業のそごう・西武を売却する。

 そごう・西武の子会社が雑貨店の(株)ロフト(東京・千代田区)で、セブン&アイの孫会社にあたる。バリューアクは、ロフトなどの非中核事業も、相乗効果が低いとして売却による切り離しを求めている。その場合、ロフトに出資している旧セゾングループのクレジットカード会社、(株)クレディセゾンが引き取る可能性が高い。

 ロフトはセゾングループの解体後、親会社がころころ変わり、セブン&アイの傘下に落ち着いたかにみえたが、再びセブン&アイグループから切り離されることになるだろう。

若者の街、渋谷で競う「ハンズ」と「ロフト」

 渋谷が「若者の街」として脚光を浴びるようになったきっかけは、1973年に開業した西武流通グループ(のちのセゾングループ)の商業施設「パルコ」である。それまで人通りの少ないさびれた通りを公園通りと名づけて、渋谷パルコ周辺のまちづくりに取り組んだ。パルコ劇場、ライブハウスなどのエンターテインメント施設をオープンし、渋谷の街をショッピングに限らない、文化発信の場として若者を呼び込むことにした。

 渋谷は東急電鉄(株)の東横線のターミナル駅を基点として発展してきたが、その東急の本拠地である渋谷に、ライバルの西武が殴り込んできたのである。

 78年に、東急不動産が渋谷の社有地活用策を検討するなかで「手の復権」を掲げたDIY店のコンセプトが浮上。「わが国初のDIY専門ビル」を謳い文句に「東急ハンズ」を開業した。ハンズのロゴマークに手がデザインされているのはこれに由来している。

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 79年には渋谷の象徴といえるファッションビル「SHIBUYA109」がオープン。セゾングループは従来の百貨店の枠を破る専門店大構想を掲げ、87年に西武百貨店渋谷店隣に「ロフト(シブヤ西武ロフト館)」を開業。以降、若者の好奇心を刺激するオシャレ雑貨を取り扱う店が続々進出。若者は最新のエンタメ、音楽、ファッションの流行を追うべく渋谷を訪れるようになり、90年代に、渋谷は若者の街へと変貌を遂げる。渋谷といえば、「恋文横丁」という飲み屋街しか知らない昭和世代のお父さんたちは、渋谷の変わりように、ただただ驚くばかりだろう。

渋谷は「若者の街」から「大人向けの街」に

 若者の街として発展を遂げてきた渋谷は、「IT企業の街」に生まれ変わりつつある。

 その象徴が、一度は渋谷から六本木ヒルズに拠点を移したGoogleが、再び戻ってきたこと。Googleが入居するのが大型複合施設「渋谷ストリーム」だ。「渋谷ヒカリエ」を皮切りに、かの有名な渋谷スクランブル交差点をほぼ真上に見下ろすことができる「渋谷スクランブルスクエア」といったオフィスと商業施設を複合した大型ビルが続々竣工。大手企業やITベンチャー企業が多数入居している。

 1990年代末のIT黎明期、学生ベンチャーが拠点としたことから渋谷は「ビットバレー」と呼ばれた。米国のIT企業の集積地シリコンバレーにあやかって「渋い(ビット)」と「谷(バレー)」を組み合わせた造語だ。当時、渋谷には大きなオフィスペースが少なく、それなりの規模になると、ベンチャー企業は広いスペースを求めて渋谷から出ていった。

 それが今日では、「渋谷にオフィスをもつ」ことがIT企業にとって、ある種のステータスとなりつつある。「ビットバレー」の復活である。渋谷は「若者の街」から「大人向けの街」に生まれ変わろうとしているのである。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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