2022年07月06日( 水 )
by データ・マックス

タイ アフターコロナに向けた投資を期待(前)

在福岡タイ王国総領事
ソールット・スックターウォン 氏

 福岡県はタイ・バンコクに事務所を構え、長期的で多分野にわたる協力関係を有する。ASEAN経済のハブを自任するタイには早くから日本メーカーが進出しており、近年は市場としての魅力も拡大、先端産業への投資誘致が活発に行われるなど、経済協力の幅が広がっている。昨年10月に、九州・中国地方を管轄する在福岡総領事館の2代目総領事として着任したソールット・スックターウォン氏に、コロナ禍におけるタイの経済・投資環境などについて話を聞いた。

地方との連携を強化

在福岡タイ王国総領事 ソールット・スックターウォン 氏
在福岡タイ王国総領事
ソールット・スックターウォン 氏

    ──福岡に着任して、印象はいかがですか。

 ソールット・スックターウォン氏(以下、ソールット) 総領事として福岡に着任でき、本当にうれしく思っています。私は北海道の札幌と小樽に留学していた際に日本全国を旅行しました。九州・中国地方は暖かくて過ごしやすい気候で、自然が豊かで、人々が優しく、深い感銘を受けたことをよく覚えています。

 福岡県は歴史上、現在においても九州地方の中心的な存在です。将来を見越して、いろいろな新しい要素を取り入れていることも実感しています。着任後、当地の博物館や美術館、寺院などを拝見し、感動しています。九州・福岡には、歴史に関係したものが多く残されています。たとえば鴻臚館は、当時、日本の外交・貿易の起点となった場所であり、安国山聖福寺は日本で初の禅寺、承天寺はうどんの発祥地とされています。九州の人々は歴史的な場所や豊かな自然を大切にし、形として残すことを脈々と受け継いできたのだと実感しています。

九州の人々は外国人に対してとてもフレンドリーで、タイ人を含め多くの外国人が訪問しています。民間企業は非常に活力があります。団体、協会は新しいかたちで外国人を受け入れていく力を感じます。

 ──2018年に総領事館を開館しましたが、その狙いは?

 ソールット 福岡県はバンコク都に単独で事務所を構えるなど、以前からバンコク都をはじめタイとの協力に力を入れています。福岡の地方自治体および民間により総領事館の誘致活動が行われ、日タイ両政府も前向きに受け止め、18年に設立されました。

 設立した理由は主に3つあります。1点目はタイと日本の交流・連携の促進、とくに日本の地方との連携を強化するためです。タイは外交方針として、世界各国の地方との連携を強化することを重視しています。当館は管轄地域の九州地方および中国地方とタイとの交流を強化していくことを主な目的の1つとし、官民で継続的かつ良好な関係を築いていくことを目指しています。

 とくに連携を重視している分野の1つが経済面です。九州・中国地方の民間企業は非常に質が高く、投資・貿易の面で非常に大きなポテンシャルをもっていると考えています。

 2点目は領事業務の強化です。当館管轄地域には約4,000人のタイ人が在留しています。当館設立以前は東京の大使館が管轄していましたが、物理的に距離があり、とくに16年の熊本地震のような事態が生じた際に、タイ人保護の業務に支障をきたしやすいという問題を強く実感しました。18年に当館が設立され、この地域に住んでいるタイ人により近い場所で領事サービスの提供、保護業務の遂行が可能となりました。在留タイ人も非常に心強く感じてくれているようです。

 1月の宮崎県沖合での地震の際には、地震発生から1時間以内に彼らの安否確認を行うことができました。タイ政府からタイ国内のメディアに日本在留タイ人の安全確認の情報が提供され、ニュースとして報道されました。このように速やかに安全の確認ができたのは、総領事館の存在と、日本の当局、自治体などの日頃からの協力があってのことだと思っています。当館の存在により、在留タイ人がより安心して日常生活を送り、幸せを感じてもらえればと願っています。

 3点目はビザ発給業務の実施です。タイでの長期滞在ビザの発給手続きには以前は東京の大使館に行く必要がありましたが、現在は当館で申請ができるようになりました。

九州企業のポテンシャルに期待

 ──コロナ禍でどのような活動を行っていますか。

 ソールット 新型コロナウイルスの感染拡大以降、対応に終始していますが、総領事館としては、昨年はコロナ1年目の20年よりも活発に活動を行った実感があります。

 経済交流では、九州経済連合会、九州経済産業局などと連携し、ビジネスマッチングのためのオンラインセミナーを継続して開催し、交流の維持・促進に努めました。

 文化・民間交流では、タイフードフェスティバルをリアルとオンラインのハイブリッド形式で開催したほか、佐賀県が実施のタイフェスティバル in SAGAもハイブリッド形式で開催されました。

 領事業務では、コロナ以降両国間の往来が困難になり、在留タイ人は必然的に日本で長期間生活をしないといけなくなりました。以前は数カ月に1回、タイに帰国して行政上の諸手続きなどを済ませていた人が、当館でそれらを行うようになりました。たとえば、パスポートの更新、国民身分証明書(IDカード)の手続き、その他各種書類の提出など、当館で行う関連の領事業務は非常に増えました。以前よりも在留タイ人への支援を手厚く行うことができたと実感しています。

 一方で、タイ人保護業務に関しては、観光客の減少により、パスポート紛失時の対応などは減っています。

 ──今年はどのような活動に力を入れていきますか。

 ソールット 経済交流では、オンライン経済セミナーなどを開催し、交流を促進していきます。九州の企業の質は高く、業種を問わず大きなポテンシャルをもっており、九州とタイの経済関係は非常にポテンシャルが大きいと考えています。西日本鉄道、JR九州、福岡銀行、九州電力、TOTO、安川電機、ブリヂストンなどすでに九州の多くの優れた企業がタイに進出しています。

 これらの企業は、タイをビジネスパートナーとしてのみならず、事業を展開する投資先として捉えていると感じています。タイはASEANの中心にあり、タイとビジネスを行うことにより、ASEAN全体に事業を広げていくこともできます。

 九州には、とくに電子機器、電子部品、自動車部品、食品加工などの分野で非常に力をもっている企業が多いと思います。これらの分野ですでにタイに進出している企業は多数ありますが、タイは今後、さらに多くの九州の企業と力強い協力関係を構築することを望んでいます。海外への進出・投資を考える経営者の皆さまには、ぜひタイを投資先として検討してもらえればと思っています。タイの投資政策については改めて詳しく説明したいと思います。

 文化・民間交流の面では、佐賀県でのタイフェスティバルも同様に実施計画を立てています。より多くの人に関わってもらい、内容の充実化を図っていきたいと思いますが、コロナの状況次第であり、ハイブリッド形式で実施される可能性もあります。

 また、学術面での連携を重視しています。各県知事を表敬訪問する際には、その県でタイ人留学生が多く留学している大学の学長への表敬訪問も行っています。最も留学生が多いのは立命館アジア太平洋大学であり、約300人のタイ人が在籍しています。

 大学以外の連携の代表的なものとしては、柳川高校との連携が挙げられます。同校は16年、タイ南部のナコンシータマラート県に「柳川高等学校附属タイ中学校」を設立し、現在は卒業生のタイ人留学生を毎年受け入れています。

 残念ながら現在はコロナ禍のため、連携をスムーズに行えていませんが、コロナ収束後は、それを取り戻す勢いで協力が強化されるものと思っています。

山口祥義佐賀県知事と
山口祥義佐賀県知事と

 九州および中国エリアに在留するタイ人約4,000人のうち、一番多いのは留学生で約半分を占め、コロナ収束後は増えるでしょう。次に多いのが日本人の配偶者です。技能実習生は今のところ相対的に少ないです。

 当館として力を入れているのが、留学生への支援です。ありがたいことに、各県にあるタイ人サポート団体・協会の多くが非常に活発に支援活動を行っています。たとえば、佐賀県のサワディー佐賀は20年に総務省のふるさとづくり大賞の団体表彰を受賞するなど、活発な活動が評価を受けています。日本の自治体の関係者もいろいろとサポートをしてくれています。

(つづく)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
ソールット・スックターウォン

1964年生まれ。タイ・チュラロンコン大学(学士)、小樽商科大学(大学院修士課程)および北海道大学(大学院博士課程)に留学。96年タイ外務省入省。在ベトナム、在チェコ共和国の大使館、在台北タイ貿易経済事務所勤務、在広州総領事館副総領事、タイ外務省広報局文化広報課長、同次官事務局財務会計管理室長などを経て、2021年10月、在福岡総領事に着任。

(後)

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