2022年05月19日( 木 )
by データ・マックス

ウクライナ報道に隠れ、ミャンマー国軍の弾圧が苛烈に(5)

歯科医師
「福岡・ミャンマー友だちの会」代表
松本 敏秀 氏

 日本政府はロシアのウクライナ侵攻に対し、人道的支援などにアジアではいち早く乗り出した。一方で昨年の軍事クーデター以降内戦状態にあるミャンマーへの姿勢は対照的で、避難民支援は消極的だ。ミャンマーは元来親日的であったが、民主化を望む多数派の国民のあいだで日本政府への不信が広まってきている。ミャンマーで予防歯科などのボランティア活動に長年従事してきた松本敏秀氏(「福岡・ミャンマー友だちの会」代表)は、早く対処しなければ、対日イメージが悪化し、今後の両国の交流・協力関係に悪影響をおよぼしかねないと懸念する。

 ──クーデター以降のミャンマーの医療体制・状況について、歯科医としてどうみますか。

 松本 医療はこの10年で少しずつ体制が整ってきていました。新型コロナウイルスの感染についても、当初は抑え込みが比較的うまくいっていたと評価できます。コロナ禍で大変になってはいましたが、今後の整備・発展に向けて軌道に乗り始めていた矢先に、今回の軍事クーデターが発生しました。

 クーデターで医療関連施設が破壊されたほか、医療従事者や患者ですら不当に逮捕された人もいます。また、軍支配への不服従運動に参加して国立病院から離れ、地下に潜って医療救護活動をしている人も多くいます。しかし、身柄を拘束されるか、さからえば殺害されるといったひどい状況です。指名手配され、各地を転々とし逃げ回っている医者・歯医者も多く、私の知り合いもいます。

 また新型コロナ感染の実態ですが、市民が気軽に行ける病院がなくなり、軍支配の病院も敬遠され、自宅にいるため、感染の実態はつかめていません。しかし、拡大はしているようです。ワクチンは、軍関係者優先に接種され、少数民族の住む地方への供給はほとんどない状態です。

 クーデターで医療体制は、2011年の民主化以前の状態へと悪化しています。今後、再び民主化し、建て直すとしても、今の状態に戻すのに10年以上はかかるでしょう。施設・設備が破壊されたのみならず、医療人材も追放され、殺害されました。医学生が教育を受けようにも、大学が閉鎖され、指導する先生もいなくなった状況です。仮に設備が残っていても使いこなせる人材すらいません。軍は、ミャンマーの医療までも破壊したのです。

 ──教育現場の現状はどうですか。 

 松本 小・中・高等学校や大学は、コロナ禍に続きクーデターもあって、多くが今なお閉鎖状態です。ですので、次世代を担う子どもや若者たちはまともな教育も受けられていません。軍事政権は、学校を再開するよう指示していますが、軍の推し進める教育内容に多くの国民が反感をもっています。しかしそれ以前に、軍人が校門の前に立っており、彼らに気まぐれで乱暴されても、泣き寝入りせざるを得ません。多くの親が不安に感じ、子どもを通学させていません。学校の教師も抑圧され、多くの人が辞めています。もっとも個人的に教室を開いたり、ネットで配信したりしています。ただオンライン授業も、軍部がネットでの情報拡散を嫌い、設備を破壊しているうえ、停電の頻度が増えているため、困難を極めています。 

 海外にいる留学生なども、軍事クーデター後、本国では留学生が帰国しても、失業率が高止まりしていて、仕事はありません。家族がいるなどのやむを得ない事情で帰国する人もいますが、多くが海外にとどまっています。国内では、優秀な人材を活用できていません。 

 ──医療物資の支援などを行っていますね。

 松本 コロナ感染患者や軍の攻撃で避難民となっている人たちを支援するため、今まで累計して200万円以上の医薬品、食品やビニールシートなどの日常品などの物資を支援しました。

 個人的なルートでミャンマーに送金し、面識があり信頼できる現地の協力者に、必要な人がいる村を巡回してもらい、直接手渡してもらいました。ただ、今年2月までは、複数の協力者を経由して、現地への支援ができたのですが、ロシアのウクライナ侵攻以降、その協力者自身への危険度が増し、送るのを停止しています。必要な物資について彼らに聞いても、今は危ないので送らないようにと言ってきます。送っても国軍に奪われたり、現地に運搬する人が殺害されたりすることも、たびたび起こっているようです。今は様子見をせざるを得ませんが、いつか支援物資を再び送れるように祈るばかりです。

福岡・ミャンマー友だちの会

(つづく)

【文・構成:茅野 雅弘】


<プロフィール>
松本敏秀
(まつもと・としひで)
1983年九州大学歯学部卒、87年同大学院歯学研究科博士課程修了後、同大小児歯科に勤務。96年松本こども歯科クリニックに開院、2011年同クリニックを閉院し、ミャンマーなど東南アジアでのボランティア活動を開始。12年「福岡・ミャンマー友だちの会」を設立、代表に就任。この間、九大歯学部非常勤講師、臨床教授、卒後研修医指導医などを兼任。2019年西日本国際財団第20回アジア貢献賞受賞。

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