2022年06月28日( 火 )
by データ・マックス

大学研究から興すビジネス、カイコで世界の医療事情を変える(後)

KAICO(株) 代表取締役社長
大和 建太 氏

 現在の創薬市場では「タンパク質製剤」がメジャーとなり、これまで治療薬がないとされていた疾病に対しても効果を現すようになった。しかし、それでもすべての需要に対応できるわけではないため、日夜このタンパク質の研究が進められている。「特集 スタートアップ」の第5回目となる今回は、カイコを使ったタンパク質の生産に取り組む大学発ベンチャー、KAICO(株)代表取締役社長・大和建太氏に話をうかがった。

カイコはコストもリスクも抑えられる生き物

KAICO(株) 代表取締役社長 大和 建太 氏
KAICO(株)
代表取締役社長 大和 建太 氏

 ──あらゆる生物がタンパク質の生成を行っているなかで、カイコに注目が集まっているのはなぜでしょうか。

 大和 カイコには2つのメリットがあります。1つ目は、カイコがつくるタンパク質の特長です。カイコがつくるタンパク質は人間が体内で生成しているものに近く、また低コストで飼育、生産できます。ほかの生物の場合は飼育などにかかるコストが非常に高く、タンパク質を回収するまでに高額な費用がかかります。同じタンパク質生産といえども、コストがまったく異なります。

 もう1つは、カイコ自体の扱いやすさにあります。カイコは人間の手がなければ生きていくことができず、完全に家畜化された生物となっています。そのため、飼育や取り扱いがほかの動物に比べて非常に容易で、ウイルスをもった状態で研究施設の外へ出てしまうこともありません。また、カイコの飼育数を増やすだけで量産体制を整えることができるため、この点においてもカイコは優れています。

 ──貴社は「カイコを使ったワクチン開発」で注目が集まりました。このコロナ禍の状況はある意味で追い風になったのでしょうか。

 大和 2018年の創業時、当社はワクチンをつくろうとしていましたが、「日本でワクチンを開発することが必要なのか」と言われていました。それは、ワクチンそのものに対して抵抗感を覚える日本人の傾向が根強かったからです。治療薬であれば、不調な体を治すために服用し、症状が改善する一方で、ワクチンは健康な体に疾病、ウイルスへの免疫を獲得するために打ち、時には副反応が現れます。日本では過去の歴史からか、近年ではあまりワクチンに対して積極的ではありませんでした。

 しかし、20年に入り、新型コロナウイルスが本格的に猛威を振るうようになると、その時流は一変しました。ワクチンの重要性が再認識され、最近では政府が国産ワクチンの生産を推奨する意向を見せ始めるなど、世間の変化を感じます。国民においてもワクチンに対する考えが変化しつつあるのではないでしょうか。創業当時はアフリカなど、海外向けのノロウイルスワクチンの生産を考え、事業をスタートさせました。しかし、現在ではさまざまな感染症に対する国内需要が高まってきていると感じます。

 21年9月に「カイコでチェック 抗体測定サービス」をリリースしました。新型コロナウイルスに罹患しているかどうかを判定するPCR検査や抗原検査とは異なり、抗体測定では「検査時点で新型コロナウイルスに対し、どの程度の抗体をもっているか」を測定するものになります。自宅で簡単に採血することができ、採血したろ紙をポストに投函するだけ。当社で検体を受領してから約1週間で結果がわかるという手軽さとスピード感があります。薬局での店頭販売のほか、ネット販売や法人など団体向けにもサービスを提供しており、ご好評いただいています。

「カイコでチェック 抗体測定サービス」
「カイコでチェック 抗体測定サービス」

 ──最後に、今後の事業展開についてお聞かせいただけますか。

 大和 まずは飼料やサプリメントを、その後は動物用経口ワクチンを日本国内で上市することを目指しています。最終的にはヒト用の経口ワクチンを完成させ、病気に苦しむ人を減らしたいと考えています。また、当社が取り組んでいるワクチンは予防を目的にしたもので、自己管理が基本です。そのため誰もが簡単に、自分の健康管理を行うことができる「パーソナル感染予防システム」、個人が自らの抗体価を把握し、必要があればサプリメントや経口ワクチンを適時・適量摂取していくことで感染予防ができるようなシステムを提供できたらと考えています。

 大学のなかだけにとどまっていたカイコ研究の成果を、カイコ製の医薬品として商品化し、世界に届けることで世の中を幸せにしたいです。

(了)

【杉町 彩紗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:大和 建太
所在地:福岡市西区九大新町4-1
設 立:2018年4月
資本金:9,000万円
URL:http://www.kaicoltd.jp/


<プロフィール>
大和 建太
(やまと・けんた)
1967年生まれ、東京都出身。横浜国立大学経営学部卒後、大手機械メーカーに就職。2012年4月九州大学ビジネス・スクールに入学、15年3月修了。18年4月にKAICO(株)を設立した。

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