2024年04月17日( 水 )

「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【2】商いと暮らしの中和点を論考する(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

何をもって「商業」と呼ぶか。    

 商業が大型化していき空間を占有してきているが、そもそも古くから日本人の生活のそばには“商い”があった。店の奥と2階が住居のような長屋が、イメージしやすいだろうか。働きながら生活するという暮らしが、産業構造の変化とともに細分化され、大きな塊として区分されて都市構造を分断してきた。その間を、実は滑らかにつないでいたのが、物流だったのだ。売ったり買ったりの消費活動の受け渡し、今やオフィス街や駅前の商業施設でなくとも、自宅のリビングで戦略を立て、ガレージで商品開発し、アスクルで頼んだ梱包材で商品を包み、配送伝票を貼り付ける。セールスドライバーが玄関先まで集荷に対応してくれれば、荷物は世界中どこへでも送り届けられる。またどこででも受け取ることもできる。

商いを建て、店を築く 商建店築
商いを建て、店を築く 商建店築

 ある意味では、「商業」が身近になったといえる。「商業」と「経済」は従来型の産業構造といえるが、そんな大げさなものでなく、SNSでの動画配信や創作品のEC販売など、気軽にプチ商売を体現している人もどんどん増えている。

 “商いを建て、店を築く” ――ショウケンテンチク/商建店築――。

 暮らしとともに商いを起こして自宅で店をひらく。そんな文化が新たに芽生えても、面白い。

「サービスが先、利益は後」

 世の中は、誰かが頑張る姿からもらったエネルギーの集合体で、結果からもらったエネルギーの集合体ではない。たとえば、子どもの頑張る姿を見て「俺も頑張らないと」と思って、大変なことも乗り越えるエネルギーをもらっている。そんな大人が集まって仕事をしている。そのエネルギーが社会を動かしている。我が子の出した結果から、エネルギーをもらっているわけではないはずだ。

サービスが先、利益は後
サービスが先、利益は後

 みんなそうやって誰かの努力する姿にエネルギーをもらって自分を動かしているはずなのに、こと自分が努力をするということになると、運にしても成果にしても、「今の自分」という狭い世界の短い期間でしか判断しないので、「運が悪い」「社会が悪い」「努力は報われない」と結論付けてしまう。でも、実際に今の自分がやった努力の成果が自分に対して表れるのは、普通の人が考えているよりもずっと後になってからだ。10年、場合によっては100年かかるのかもしれない。さらに、その成果は自分に表れるとは限らない。むしろ自分の周りの大切な人とか次の世代とか、そういうところに表れてくることだってある。

 それなのに、努力をしても今すぐ自分に良いことが起こらなければ、「運が悪い」「努力は報われない」と大騒ぎする。「今すぐ」「自分だけ」と考えすぎではないだろうか。人間1人の人生は延々と続く命の物語の、ほんの一部分でしかないということを、どこかでちゃんと理解する必要がある。

▼関連リンク
「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【1】 人口減少下にあるべき商業とは


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事