「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【2】商いと暮らしの中和点を論考する(中)
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仕事を分配するプラットフォーマー
ハコベルは、「送りたい人(運んでほしい人)」と「運びたい人」を引き合わせるパイプ役だ。両者にとっての“御用聞き”のようなかたちでプラットフォーマーと呼ばれる。業界の重層構造を解体し、需要に対して供給サイドを直接結びつける仕組みを構築。ユーザーの先頭に立つ事業者が手数料をもらって運営する。昨今増えてきたさまざまな種類のプラットフォーム事業は、新たな成長のエンジンのかたちになっていくだろうか。
古い産業では、かつて有効に働いた仕組みを使って黎明期や成長期を駆け抜けてきた。成熟期を迎えたことに加え、人口減少やテクノロジーの発達もあり、今その古い仕組みは疲弊していると言われている。イノベーションが無駄をなくしていくことで、今ほど過剰労働をせずに豊かな生活を送りながらも、収益を伸ばすところに活路を見出せるのではないだろうか。
ハコベルは、物流業界で「送りたい人」と「運びたい人」を無理なくマッチングさせることで解決に導いた。ハコベルを運営するラクスル(株)は、まず「印刷してほしい人」と「印刷したい人」とをつないだ。それは飲食の世界(食堂:食べたい人とつくりたい人)でも、教育の世界(学校:学びたい人と教えたい人)でも、同じようなエッセンスで考えられてきた。当然、経済・社会の根幹部分だ。でもそれが、現代の社会ではシステムエラーを起こしていることが多い。古い業界ほど旧態依然のシステムで動いていて、現代のニーズに合わないシステムのなかで働いている。古い仕組みを使い続けるのではなく、今の技術や思想や価値観のフィルターを取り換えて、現代にあったインフラにつくり替えていく必要があることを感じてもらいたい。
流通のカタチがカギを握る
ところで、「棲みごこちが良い」とはどんな感じだろうか。静かなところ?日当たりが良いところ?公園や緑が多い、眺望が良い、近所付き合いが良い、買い物が便利――等々、いろいろな特徴はあるだろう。でも私が思う一番の要因は、「邪魔にならないこと」だ。なくてもいいけどあったら便利なものより、“あっても邪魔にならないもの”がいい。夜景がとてもきれいで壮観な風景を臨める部屋でも、ネオンが煌々と降り込んでくるような部屋は邪魔だし。家の隣に安くておいしいパン屋さんがあるのは嬉しいけど、連日人込みと車の渋滞はうんざりだ。その配置と数量と思いやりみたいなものが、絶妙なバランスで保たれている、適度な関係が築かれているような感じだろうか。それは自分にとっての尺度。人によってさまざま違うだろうが…。
消費の場、流通の現場に大型の集客施設が建ち、その川上に物流拠点が立つ。モノが動くその動線上には、絶えず人が集まる。――ということを念頭に、単なる物流拠点としての“箱”があるというだけの流通業界にならないで欲しいと思う。
「商業」はかつて、個別対応だった。売り手と買い手が1対1で対峙し、コミュニケーションを交わしながら「御用聞き」のように商談が行われていた。大量な消費を交わす成長時代にはその構図が崩れ、大きなサプライピラミッドが形成され、大きなものから小さなものへの流通でその大量消費を下支えし、またその期待に応えた。しかし、さらに時代が変わった現在では、かつての御用聞きのようなシステムをインターネットの力で進化させた「NEW・御用聞きシステム」のようなものが求められている。それは、プラットフォーマーが細かな要望を聞き、その背後にあるシステマチックなサプライチェーンが細やかなリクエストを瞬時に捌いていくドラスティックな実働部隊。メルカリ、BASEのような一般ユーザーによる生産・消費活動の勃興。クラウドワークスのような個人への業務委託の流通。フリーランスのような個人の働き方の変革も、大きな後押しになっているだろう。すべて個人の能力、個々のスキル・アセットの流通が活性化した、とも言い換えることができる。
▼関連リンク
「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【1】 人口減少下にあるべき商業とは
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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