2024年05月10日( 金 )

急務のアベノミクス全面廃棄

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は「アベノミクス失敗は明白であり、基本経済政策路線の180度転換が求められている」と訴えた7月19日付の記事を紹介する。

7月11日放送の東アジア共同体研究所主宰UIチャンネルをご高覧賜りたい(https://www.youtube.com/watch?v=_-jTiEwJ_Ss)。対談テーマは「参院選結果と日本の諸問題」。参院選結果のほか、新しい資本主義と日本の経済政策、コロナ、ウクライナ、原発、今後の政治課題について考察している。

参院選では自民党が議席を増大させた一方で立憲民主党が議席をさらに減少させた。その他の政党では維新が議席を増やした。比例代表獲得議席では維新が立憲民主党を抜いて第2党に浮上した。

日本政治刷新を求める主権者は多数存在するが、立憲民主党がその主権者の声を受け止める受け皿に成り得ないことが明白になった。参院選惨敗を受けて泉健太代表が辞任し、立憲民主党の解党的出直しを図ることが必要だが、泉氏はポストにしがみつく姿勢を示している。

立憲民主党が衰退しているのは同党が野党ではなく「ゆ党」に変質したため。自民党にすり寄る政党を、政治刷新を目指す主権者は支持しない。立憲民主党は御用組合連合の連合六産別の軍門に下った。連合六産別は野党分断を狙うCIAの意向を受ける工作者の存在。その連合六産別に支配される立憲民主党に日本政治刷新の期待を寄せることはできない。

日本政治刷新を目指す「たしかな野党」勢力の再結集を図るしかない。日本共産党、れいわ新選組、社会民主党を基軸に基本政策を共有する政治勢力と市民の連帯構築が急務である。この「政策連合」を確立して大きく育てることが必要だ。

基本政策として第一に挙げるべきことは平和主義の堅持。日本国憲法改定を性急に実施する必要はない。

ウクライナの戦乱が発生したが、この戦乱発生から得るべき教訓は戦乱発生の回避である。ウクライナでの戦乱発生は自業自得の側面が強い。ウクライナ内部での内戦を収束するためにミンスク合意を締結したにもかかわらず、そのミンスク合意を踏みにじり、ロシアとの軍事対決路線を鮮明に示したのはウクライナの側である。ウクライナのゼレンスキー大統領と米国のバイデン大統領が息を合わせてウクライナでの戦乱を誘発したと見るのが適正。戦乱始動後もゼレンスキーは戦乱の拡大と長期化しか指向していない。

日本は極東における戦乱発生の未然防止に力を注ぐべき。中国との間の尖閣領有権問題は日中国交正常化交渉の過程で「棚上げ」することで日中両国が合意した事項だ。その「棚上げ合意」を否定し、尖閣領有権問題は存在しないとの閣議決定を行ったのは日本。

2010年6月8日に菅直人内閣が閣議決定し、尖閣海域中国漁船衝突事件を引き起こした。日本政府の歪んだ政策運営が日中関係の人為的悪化をもたらした。背後に米国の誘導と命令があったことはいうまでもない。米国が紛争の種を創出し、戦乱を創作している。米国の挑発と傍若無人の戦乱誘発姿勢はこれまでの歴史を顧みれば一目瞭然だ。

経済政策においてはこれまでの歴史事実を直視することが必要不可欠。「成長」を最優先課題に据えながら、過去30年間、日本経済は成長を実現していない。

それにもかかわらず、岸田首相は「まずは成長」と唱えている。岸田内閣に期待できることは皆無に近い。岸田内閣は挙げ句の果てに「資産所得倍増」を唱え始めた。格差拡大が最大の経済問題であるときに資産所得倍増を目標に掲げるのは正気の沙汰でない。

多くの凶悪事件が頻発しているが、その背景に政府の格差放置、貧困放置の問題がある。経済政策の根幹を是正するには政権そのものを刷新するしかないといえる。

安倍元首相に対する銃殺事件を引き起こした山上容疑者の経歴は衝撃的だ。山上氏は豊かな家庭に生まれながら、新興宗教の影響で破産、一家離散、相次ぐ自死などに遭遇してきた。山上氏の行動を是認することはできないが、壮絶な境遇と経験を重ねてきたことは推察できる。勉学優秀でありながら、経済的事情で大学進学を断念せざるを得なかったことも悲劇といえる。

いまの日本社会においてもっとも優先度の高い政府施策は、すべての国民に政府が保証する最低ラインの引き上げだ。家庭内で虐待を受ける子どもは政府の責任で守る必要がある。すべての子どもに大学までの教育を受ける機会を保証すべきだ。経済的事情で進学が困難な子どもに対し、政府の施策で大学卒業までの費用負担を肩代わりする制度を確立すべきだ。

同時に、すべての国民に対して政府が保証する最低ラインを大幅に引き上げるべきだ。生活保護は国家による救貧策として位置付けられ、制度利用に肩身の狭い思いが強要されている。

しかし、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利は憲法が保障する基本的人権である。生活保護利用は権利の行使であって、国家による施し、恵みの授与ではない。生活保護の用語を生活保障に変更し、制度を利用する要件を満たす国民に対して、自動的に全員給付が行われる制度に刷新することが必要だ。

すべての国民に保証する最低ラインを引き上げる。虐待を受ける子どもを政府の責任で保護して支える。希望するすべての子どもが個人的な負債を負うことなく大学を卒業できるための政府支援を実施する。こうした施策が必要不可欠だ。

旅行支援に兆円単位の血税を注ぎながら、本当に必要な施策に財政資金を投下しないところにこれまでの政府の誤りがある。

インフレ誘導、人為的低金利政策、円安誘導は、すべてが輸出製造業を中心とする大資本利益増大のための施策。円安誘導は個人が保有する金融資産のドル評価価値を暴落させている。日本のすべての優良資産のドル表示価格は暴落しており、日本全体が外国資本に乗っ取られる機会が創出されている。

日本円の暴落は日本凋落の象徴でもある。日本政府は2022年6月末時点で1兆3,113億ドルの外貨準備を保有している。そのうち、1兆527億ドルが外国証券で、その大宗は米国国債だ。1ドル138円換算で145兆円の米国国債を保有している。円安防止=ドル高防止のために、日本政府保有米国国債を市場で売却すべきだ。

円高時点で米国国債を購入しており、ドル高局面で売却すれば為替益を実現できる。同時に、極めて有効な円安防止策になる。

日銀は家計にマイナスの影響しかないインフレ誘導政策を中止すべきだ。日銀の責務は通貨価値の安定にある。超金融緩和政策を中止して、金利の正規化を誘導すべきだ。金利の正規化は資産超過主体である家計にとってはプラスの効果を発揮する。

進行するインフレに歯止めをかけることも必要。日本円の反転は外国資本による円資産投資を誘導する要因になり、日本の資産価格暴落の事態は回避される可能性が高い。

「アベノミクス」は、成長を優先し、その成長のプラスの影響が家計にも波及するとのストーリーとして提示されたが、実際には成長は実現せず、家計への分配は細る一方だった。アベノミクス失敗は明白であり、基本経済政策路線の180度転換が求められている。

インフレ誘導からインフレ抑止へ、円安誘導から円安是正へ、人為的低金利政策から金利の正規化へ経済政策の抜本転換が求められている。この意味からも政治刷新を実現することが強く求められている。

※続きは7月19日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「急務のアベノミクス全面廃棄」で。


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