2024年04月25日( 木 )

JR九州におけるハイブリッド気動車の可能性(後)

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運輸評論家 堀内 重人

JR九州への適用の可能性

 JR九州も、亜幹線の久大本線や豊肥本線で気動車を使用した特急「ゆふ」や「あそ」が運転される以外に、日南線や指宿枕崎線、三角線などではD&Sトレインと呼ばれる観光特急が運転されている。

 特急「ゆふ」や「あそ」は、国鉄末期に製造された気動車が使用されており、今日では、車両性能や居住性などに関して利用者の満足が高いとはいえない。

 D&Sトレインに関しては一般用の気動車を改造した車両も多く、座席こそ特急用のものに交換されているが、走行性能や乗り心地などで、特急列車として利用者が満足する水準に達していない。

 JR九州の場合、非電化のローカル線も多く抱えている上、車両の老朽化も進んでおり、新型車両への置き換えは喫緊を要するところである。

 そうなるとJR東海が導入したHC85系気動車をベースとしたハイブリッド型の気動車を導入して、乗務員の養成コストや車両のメンテナンスコスト、動力費などの削減を図る必要がある。

 九大本線や豊肥本線も急勾配と急カーブが連続する線区であり、国鉄時代の末期に製造された気動車では、性能面でスピードアップが難しいだけでなく、居住性でもJR九州が所有する電車特急や「ふゆいんの森」(写真3)などと比較すれば、完全に見劣りする。

写真3
写真3 

 JR東海が導入したHC85系気動車は、ディーゼルエンジンで発電を行い、そこで生じた電気やバッテリーに貯めた電気で駆動するため、電車の運転免許で対応が可能となり、従来のように気動車の運転士を養成する必要性から解放される。また従来の気動車であれば、液体変速機や推進軸が必要となり、部品数も多くなるだけでなく、液体変速機などはメンテナンスに高度な技術が要求された。

 だが、HC85系気動車は、構造上は電車と同じであるから、部品などのモジュール化が実現して、メンテナンスがしやすく、メンテナンスコストも削減される。

 非電化の山岳路線や閑散路線が多く、気動車の老朽化が進んでいるJR九州にとれば、今後はハイブリッド型の気動車の導入が不可欠になる。

輸送密度1,000人未満の路線の存廃について

 1kmあたりの1日平均輸送密度が1,000人を下回るローカル線の在り方について、国土交通省の有識者検討会が7月25日に提言をまとめた。これらの路線や区間については、国が「特定線区再構築協議会」(仮称)を設置することが、提言に盛り込まれた。そして、沿線自治体と鉄道事業者が存廃を含めて議論を進めるよう求めている。近く国土交通省に提言し、今後の政策へ反映させるよう求めるとしている。

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 JR九州の管内では、日豊本線の佐伯~延岡間、筑肥線の唐津~伊万里間、筑豊本線の桂川~原田間、豊肥本線の宮地~三重町間、肥薩線、吉都線、指宿枕崎線の指宿~枕崎間、日南線の油津~志布志間が該当する。

 日豊本線の佐伯~延岡間は電化されているが、大分県と宮崎県の県境には宗太郎峠があり、この峠で生活圏が変わってしまうため、特急列車による流動しかなく、佐伯~延岡間のローカル列車は1日当たり1往復程度しかない。

 だが、大分~宮崎間では特急「にちりん」が運転されていて、都市間連絡の機能を担っており、この区間に関しては「特定線区再構築協議会」(仮称)の設置が除外されなければならない線区である。

 その他の線区は非電化路線であるが、筑豊本線の桂川~原田間は、かつて寝台特急「明星」が通るなど、鹿児島本線のバイパス的な機能を有した路線である。

 豊肥本線の宮地~三重町間は、例え1日当たりの輸送密度が1,000人未満であっても、熊本~大分間を結ぶ特急「あそ」が運転されるなど、都市間連絡の機能を担っている。この線区も、「特定線区再構築協議会」(仮称)の設置から除外されなければならない。

 肥薩線は2020年の集中豪雨により線路が被災したため、現在は八代~吉松間が運休中であり、八代~人吉間は河川の拡幅にともなう線路の付け替えが必要となる。だが、JR九州単独では復旧させることは無理であり、存廃が検討されている路線である。

 吉都線は吉松で肥薩線と、都城で日豊本線と接続するため、1日当たりの輸送密度が1,000人未満という条件だけでバス化などが実施されると、ネットワークが崩壊する危険性がある。

 吉都線や筑豊本線の桂川~原田間、豊肥本線、指宿枕崎線、日南線などは、ハイブリッド気動車の導入を進め、乗務員の養成コストとメンテナンスコスト、動力費を削減することで、その線区の収支状況を改善させ、JR九州が単独でも維持できるようにする必要がある。

 JR東海が導入したHC85系気動車は、車内の静寂性にも優れ、電車と遜色のない居住性を有しており、乗務員の養成コストとメンテナンスコスト、動力費も削減できるため、山岳路線や閑散線区が多く、気動車の老朽化が進んでいるJR九州にとって、ハイブリッド気動車の導入は不可欠になるといえる。

(了)

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