歴史が息づく商都のオリジン「博多部」（後）

エリア内の開発熱は旺盛、独自性を高められるか

    なお、博多部エリアにはかつて冷泉小学校・奈良屋小学校・御供所小学校・大浜小学校という4つの小学校があり、それぞれの校区に分かれていたが、児童数の減少などを理由に98年に統合され、新たに博多小学校として開校した経緯がある。そのときに4つの校区も統合され、現在は1つとなった。博多小学校区の校区内人口および世帯数の推移を見ていくと、02年9月末の1万5,353人・9,124世帯から、12年6月末には1万9,693人・1万3,443世帯まで増加し、さらに22年6月末には2万3,129人・1万7,302世帯まで増えている。福岡市全体の人口が増加傾向にあるため、博多部だけが際立って人口増にあるわけではないが、エリア内に福岡市地下鉄が通り、JR博多駅にも近いなどの交通利便性の高さや、博多はもちろん天神にも近い都心部の一角という立地からも、居住ニーズが相応に高いのもうなずける。

    また、本号別項で詳報している「令和4年度地価調査」でも、10％以上の上昇率を示した基準地として、博多部に属する「神屋町10-19（13.6％）」「中呉服町4-26（13.5％）」「綱場町9-28（16.4％）」「冷泉町5-32（13.9％）」などがピックアップされている。これらの地価上昇は、いずれもオフィスを中心とした商業地としてのポテンシャルの高さが評価されてのものだと推察される。とくに高い上昇率を示した綱場町では現在、福岡地所（株）と第一生命保険（株）による「（仮称）綱場プロジェクト」が進行中。同プロジェクトは、S造・地上12階建てのオフィスビルを開発する計画で、設計・施工は清水建設（株）が担当し、23年5月の竣工を予定している。こうしたオフィスビルのほかにも、エリア内ではマンションをはじめとした複数の開発が進行。オフィスおよび居住ニーズの受け皿としてのポテンシャルの高さがうかがえる。

　ただし博多部においては一時、インバウンドバブルの追い風などを受けて民泊施設や新規ホテルの開発などが旺盛だった。しかし、その後の情勢の変化を受けて、それらの開発熱は失速。開発計画の中止あるいは凍結を余儀なくされているところも出ているようで、祇園町などではホテル建設予定の標識が掲げられた土地で、着工予定時期を過ぎても手付かずのところもいくつか確認された。こうした開発の今後の動向も気になるところだ。

    近年、JR博多シティ（11年3月開業）やKITTE博多（16年4月開業）、JRJP博多ビル（16年4月開業）などの存在によって、博多駅周辺はかつてのオフィス街だけにとどまらず、商業街としての色も濃くなってきている。また今後は、博多コネクティッドによる再開発の進行とともに、さらに魅力ある新たなまちづくりが進んでいくことだろう。その一方で、その北側に位置する旧市街・博多部は今後、どのようなエリアの独自性を打ち出しながら、まちづくりを進めていくべきだろうか。来年春には地下鉄七隈線が博多駅まで延伸開通し、博多部にも新駅「櫛田神社前駅」が設置されるほか、両エリアを貫く大博通りをはじめとして、博多駅周辺との動線も決して悪くはない。博多部独自の魅力を打ち出し、博多駅周辺の人流を何とか博多部まで引き込む、ハード・ソフト両面での仕掛けが求められる。

　今回紹介したように、博多部は福岡・博多だけでなく、日本における“オリジン（起源）”といえる場所だ。それだけに今後、旧きと新しきの良さを融合させた、独自のまちづくりが進んでいくことを期待したい。

（了）

【坂田　憲治】