2024年10月08日( 火 )

漫画のキャラクターが『おもてなし』!(4)

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キャラクターが活き活きと描かれているか

 ――前回、最後の部分で日本の漫画の本質に触れるお話がありました。ところで、“ストーリー”と“キャラクター”はどのような位置関係にありますか。

jugyou すねや 私は日本漫画が他の諸外国のそれと大きく違う特徴の1つは「キャラクター」を軸に作られている事であると思っています。キャラクターとは登場人物の事でもありますが、「キャラが立つ」という言葉で表現されるキャラクターの「生きざま」の描き方、それを伝える為のさまざまな技術が日本の出版社や作家には蓄積されています。
 読む人、見る人は単なるストーリーの内容で泣いたり、笑ったりするのではありません。その登場人物、すなわち「キャラクター」に「感情移入」して泣いたり、笑ったりするのです。「キャラクター」がドラマを経験して、そのドラマの中での感情がそのまま読む人見る人の感情となることが作品の面白さにつながっています。

 感情移入できるかどうかのポイントは、一般的には「同感」や「共感」と言われています。経験に基づいた「言葉」というものはとてもリアル感があります。経験を積んだプロの漫画家は、実際に経験していなくても取材や資料などから絵や言葉で、そのリアル感を表現するのが上手いのだと思います。この「キャラクターへ感情移入させるテクニック」が日本人作家の優れている点かも知れません。

「おもてなし」や「こころ遣い」の精神

 ――とても深いお話ですね。ではなぜ、日本人は「キャラクターへ感情移入させるテクニック」が他の諸外国と比べて上手いのですか。

 すねや それには色々な答えが考えられます。しかし、私は日本人が生来持っている「おもてなし」や「こころ遣い」の精神が大きく影響を与えているのではないかと思っています。日本漫画の世界では、突き詰めるとキャラクター同士が作品での中で「おもてなし」、「こころ遣い(思いやり)」の行動をとっています。

「友情、努力、勝利」の3つのテーマ

 一時期最大部数を誇った『週刊少年ジャンプ』は創刊当時から、これは関係者が誰でも知っている有名な話ですが、その編集方針を「友情、努力、勝利」の3つのテーマに絞っていました。それはアンケートにより心に響く言葉として選ばれたもので、他の雑誌も似たような方法をとっていた時期もありますが、明確にジャンプはこの3つの条件を満たした作品しか掲載しないということを宣言していたわけです。

 漫画を描く作家も、編集する側も登場するキャラクターにこの3つのテーマを入れていきました。今、世界的にヒットしている『ONE PIECE』、『NARUTO』、『ドラゴンボール』なども全て、この方針に基づいて描かれています。漫画でもアニメでも、ストーリーの中にそのようなテーマにそったキャラクターの思いとか、行動が入っているのです。
 つまり、根源的なテーマとして感情を振るわせる要素が入っているので、日本人のみならず、世界中の人々を感動、感激の渦に巻き込むことが可能になっているわけです。

より多くの読者に読んでもらうために

 ここで、日本漫画の重要な特徴の2つ目を申し上げます。それは、日本漫画は漫画作家が1人だけで作り上げるものではなく、漫画家と編集者が喧々諤々な議論をする、その共同作業(推敲)の上で、読者に届けられるのです。もちろん、漫画作家が中心になるのは当たり前の話ですが、ともすればクリエイターはいずれも独りよがりになりがちです。しかし、ベテランの編集者は「過去にこの表現はこうした方が読者に分かりやすかった」とか「今、この雑誌の読者は、このような情報を望んでいる」とか過去に読者アンケートでは「このような意見が載っていた」とか「このような表現は人気がなかった」など豊富な情報を持っています。それを漫画家にフィードバックしてくれるのです。

 日本の漫画家は「ネームの描き直し」は当たり前です。しかし、台湾の漫画家は一度も書き直しをしたことがないという話も聞きます。考え方次第ですが、「より多くの読者に理解されたい」、「より多くの読者に読んでもらいたい」、「もっと多くの人に買ってもらいたい」などと言う気持は、結果的に素晴らしい作品につながる情熱となっていきます。このことはとても重要です。

 私はこの点を「角川国際動漫教育」のカリキュラムとしても重視しています。6カ月単位の授業の後半部分では、実習を通して学生の描いた作品に対し講師がフィードバックする形でどんどん作品のレベルが高まっていく、よりよい作品に仕上がっていくことを実体験して欲しいと思っています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
suneyakazumiすねやかずみ氏(本名:強矢和実)
 台湾角川国際動漫股份有限公司 教務総監・漫画家。『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で新人賞を獲りデビュー。『マガジンSPECIAL』(講談社)などにギャグ/ホラー/コメディーなどのジャンルで連載。漫画家ユニットとして集英社『週刊少年ジャンプ』公式WEBサイトでデジタルマンガを連載。携帯コンテンツ初の占いマンガ制作DoCoMo・ソフトバンクの公式占いサイトのプロデュースなどを行う。 
 2008年より(株)漫画家学会の取締役として、漫画家に対して新たなマンガ事業の開拓・提案や紙芝居の事業化を行っている。京都精華大学マンガ学部ストーリーマンガコース非常勤講師、総合学園ヒューマンアカデミー東京校マンガカレッジ専任講師を経て現職。

 
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