2024年04月19日( 金 )

戦後70年談話は「謝罪なし」「韓国軽視」の公算?!(中)

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米中アジアを重視、「未来が過去を規定する」

 安倍首相による「戦後70年談話」は、8月10日以降15日までの間に発表される公算が強まった。談話の方向性について提言する首相の私的諮問機関「21世紀構想懇談会」は7月21日に最終会合を行い、提言に向けた文言の最終調整に入った。談話はどういった内容になるのだろうか。今回のコラムで占ってみよう。

「国際秩序」を破壊した日本軍国主義

tikyugi 第4回会議(4月22日)に「有識者」として招かれた細谷雄一・慶応義塾大学教授(国際政治史)のレクチャーは、読み甲斐がある。議事録からは、懇談会メンバーに対して訴求力があったこともうかがえる。

 細谷氏は1971年生まれの若い論客だ。イギリス外交史が専門だが、最近は日本の外交史についても鋭い分析を行っている。彼は懇談会で「20世紀の回顧と和解の軌跡―イギリスの視点を中心として」と題して、報告した。なかなか興味深い。以下、その概要を紹介したい。ポイントは、次のフレーズだ。

 「20世紀の前半において、日本は国際秩序への挑戦者であり、国際秩序を大きく傷つけた破壊者であったが、それに対して戦後は、アメリカやイギリスが中心となり作られたリベラルな国際秩序において、日本は破壊者ではなく、むしろそれを支え、それに貢献する国へと変わった」。

 キーワードは「国際秩序」である。これまで「歴史認識」問題をめぐっては、日本が中国や韓国に対して、あるいは米国に対して何をしたのかという「二国間関係」のなかで取り沙汰されてきた。細谷教授は懇談会で「国際社会あるいは、国際秩序に対して何をして来たのかという視座がしばしば欠ける傾向」があったことを強く指摘した。

 これは20世紀前半、世界史の傍流だった日本と、世界史の主流をなした欧州との違いから来る「歴史認識」の相違でもあるだろう。細谷教授によると、第一次世界大戦でイギリスの戦死率は7%(75万人)、ドイツは15%(293万人)、フランスは13%(132万人)だった。これに対して日本はわずかに0.1%(1,000人程度)に過ぎない。ここに大きな認識のギャップが生じたのである。
 欧州は第1次世界大戦の痛切な教訓から、戦後、不戦のために国際連盟を結成した。さらに米仏はパリ条約を締結して、「国家政策の手段として戦争を放棄する」ことを宣言した。この平和主義の世界秩序を破壊したのが、日本軍による侵攻=満州事変だった。「満州事変で重要なことは、日本が中国を侵略し、中国の人を殺したということだけでなく、それ以上に、国際秩序を破壊したということである」(細谷)。国際社会が経験した「日本による秩序破壊」の経験が、第二次大戦後、国連憲章51条における自衛と集団的自衛権の容認を基軸とした戦後の国際秩序の根幹になった。こういう通史理解が、筆者には重要であると思われる。

 日本軍国主義がいかに国際社会の秩序を無視し、破壊したのか。それを示す端的な数字がある。捕虜の問題だ。細谷教授によると、第二次世界大戦で、欧州戦線におけるイギリス人捕虜の死亡率は5%であった。他方、日本軍の捕虜になった英国兵の死亡率は、25%である。日露戦争の際のロシア人捕虜8,000人の死亡率は、0.5%であったという。しかし、アジア太平洋戦争では、一挙に25%に跳ね上がった。これは、どういうことなのか。戦前の日本軍の行動に、明確な「国際法軽視」があったからだ。日本人にとっては、「痛恨の歴史」と言うしかない。捕虜」問題は、戦後の日英関係における最大の障害だった。しかし、この問題が日本の官民による共同事業でクリアされると、今、イギリス人の65%が「日本を信頼する」と答えるようになった。詳述は避けるが、「捕虜」問題は、慰安婦問題を解決するための「先行例」として、1つの教訓になる。

(つづく)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 
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