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2015年08月24日 17:00

回復期リハビリの要、セラピストを育てる(4)

 学校法人福岡保健学院の学生たちも、就職先をグループ病院のみに頼っているわけではない。他病院からの求人も来るので、それに応募もしている。就職先もさまざまだ。作業療法士科講師T氏は、「作業療法士科では、精神科のある病院を希望する学生もいますよ」と語る。

20150824_010 グループ内病院では、他の精神病院で鉄格子病室に入っていた患者を受け入れたことがある。今では温厚な印象のその患者は、森林内での事故による頭部強打が原因で認知能力が著しく低下し、暴行行為が止まらなかったため、精神病院に隔離されていた。その後、同院に転院、転医し、治療とリハビリ治療を行ったところ、今では現実を把握する能力が蘇りつつある。
 理学療法を受け、廊下を小走りで移動できるようになり、皆で歌うという作業療法にも顔を出せるほど安定した。この病院の隣には学校があり、学生がよく研修に来ていたので、このようなセラピストの役目を目の当たりにし、精神病院と回復期リハの関係性などを目にしたこともあったのではないかと思う。

 最近では、精神科の認知症リハビリスタッフとして、作業療法士が求められることも多くなった。学生たちが希望する先も増えてきた。
 「私たちの仕事は、患者さんがある程度自分たちの声に耳を傾けてくれる状態でないとできません」とT氏。そのために精神科で治療を受け、状態が安定してからの出番となる。その後、どれだけ良い療法を施すことができるか、そのさじ加減が大切になる。
 まだ化学治療法が明確でない認知症は慢性疾患として、いかに進行を食い止め小康状態を保つか、ということが求められると同時に、認知が危うくなっている患者の心をいかに支えていくか、という大きな課題を背負っている。
 「作業療法士科の学生は、心理学などに大きく授業のコマを取って習っているわけではありません」とT氏は言う。その代わり、患者の立場を尊重しながら、患者が日常レベルの作業が行えるようになるまで根気強く寄り添う姿勢を学んでいる。学生たちは座学ではなく、実習で学ぶ。だからこそ、過去のことを何回も何回も繰り返しつぶやく患者の話を傾聴し、それをいかに「現在の自分」に結びつけさせるか、相手の状況を見ながら判断し療法が行える。

 「徘徊は認知症のなかでも最も周囲の方を悩ませる症状の1つですが、徘徊の途中にある方は非常に険しい顔をしています。自分がどこにいるのか、どこにいていいのかわからなくて不安を覚えるから徘徊するのですよ」とT氏は言う。
 本来なら最も心落ち着く場であるはずの自宅から遠く離れて徘徊する高齢者たち。端から見ると、なぜ家にいては安心できないのかわからなかったとしても、徘徊する方は心の深層に求める風景を持っているのかもしれない。それを把握するのは困難だ。だが、症状を手術や薬で緩和した後の患者が、長時間かけて買い物し、一品の料理を苦労してつくりあげるのを見守り、共に食し、「美味しいね」と声を掛けることで、患者は自分の居場所を取り戻すこともある。

(つづく)
【黒岩 理恵子】

 
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