2021年12月09日( 木 )
by データ・マックス

日本の伝統技術を後世に伝えたい

大工育成塾OB 全国大工志の会 代表  池尾 拓 氏

 建設業界の活性化を目指し、国主導で始まった「大工育成塾」。その卒業生で構成される、全国大工志の会の代表を務める池尾拓氏((株)住幸房代表)に大工を目指した理由、そして物づくりの魅力を聞いた。

古き良きスタイルを次世代に紡ぐ大工志

棟上げの様子<

棟上げの様子

 「原木を仕入れて、自分が理想とするかたちやオーナーさまの理想とするかたちに製材するんです。この作業に今後注力したいと考えています。オーナーさまと一緒に山に入って、『この木が柱になるんですよ』と紹介するのもいいでしょう。資材1つへのこだわりで、家ができるまでの工程にストーリー性を生み出すことができますし、そのことがそのまま弊社の提案する住まいに付加価値を与えることにもなります」。
 そう笑顔で語ってくれたのは、(株)住幸房代表取締役であり、国家プロジェクト「大工育成塾」の卒業生―大工志でもある池尾拓氏だ。大工育成塾の塾生として工務店に弟子入りし、数多くの現場で技術研鑽を積みながら、「30歳までに独立を」という志を、28歳で見事に果たした池尾代表。そんな池尾代表が1人前の大工志として目指したものは、日本の伝統技術を用いた伝統構法の家造りを実践し続けることで、日本の伝統技術を後世に伝えていこうというものだった。

 「自分の『手を使って』物をつくりたいという想いが一番にあります。RC(鉄筋コンクリート構造)を大学で学びましたが、本当は木造の構造を学びたかったんです。それでも大学時代の恩師はとてもユニークで、教え子たちの好奇心を『引っ張り上げる』のがとても上手な方でしたので、卒論もRC(CFT:コンクリート充鎮鋼管構造)に関してみっちり書かせてもらいました。そのなかで私が好きな古民家への理解が深まる発見もあったりして、振り返ってみると大変ためになったなと思います」(池尾代表)。

 伝統的な日本家屋―古民家は、脆さを欠点とするRCと違い、部材の曲げ・木材同士のめり込みなどの柔らかく抵抗する要素の積み重ねにより、家に耐震力、「ねばり」の強さをもたらすと池尾代表は語る。古民家に多く見られる「土壁」からは、力強いイメージというのは湧きづらい。しかし現実には多くの古民家が長年にわたり、地震をはじめとする天災に耐え抜いて、21世紀の今日まで人々の生活の場として存在し続けている。この実績と、それを支える伝統工法は決して無視できるものではない。
 池尾代表の伝統技術を用いた伝統工法による日本の原風景、「ふるさと」を後世にという想いは、東日本大震災以降高まり続けている、地域の災害対策の充実という気運と合致するだけでなく、過度な環境改変も抑えることができる自然に優しい取り組みだと言える。

建設業界へ来たれ若人!物づくりの面白味

 池尾代表は幼少期よりものをつくることに熱心で、凝り性だったようだが、大工を志すようになったキッカケは、大学2年のとき、アルバイトとしてお世話になった佐賀を拠点に活動する㈲夢木香での現場作業から得た経験だったという。
 「松尾社長の『バイト来るか?』のお誘いに喜んで応え、壁の泥付け、木材塗装、丸太の皮剥ぎなどを経験させてもらったことで、もともと抱いていた大工への想いがきっちり固まりました」(池尾代表)。

 28歳で同じ「大工育成塾」の卒業生―大工志として社会に飛び出した滝口亮太氏と住幸房を起ち上げた池尾代表。大工としての仕事ぶりは、新築、リフォーム、地域に密着した工務店からの請負いと、バランス良く仕事を受注できていることからも、同社社員の技量に向けられた信頼の高さがうかがえる。会社を運営する経営トップとしては、毎期売上高増を達成しているからこその多忙さからくる、財務処理や決算処理にあたふたすることもあるようだが、池尾代表は「私も社員たちも、本当に楽しいと思いながら仕事をさせてもらっています」と嬉しそうに語る。もちろん課題もある。業界全体で対処していかなければならない「将来の担い手不足」だ。

 池尾代表も業界への足がかりとして門戸を叩いた「大工育成塾」は、2015年4月をもって塾生の受け入れが最後となった。今後、別のかたちの、若者たちが実地研修を交えながら業界への理解を深められる場所が必要となってくる。池尾代表はその新たな場所を若者たちに提供しようと現在奔走している。「業界の問題は業界で解決するのが一番だと思います。助成金に頼るのではなく、たとえば工務店同士でネットワークを構築して、将来を担う人材への先行投資としてお互いに資金を融通し合い、周辺地域の学校に求人情報を提供するなど、もっと積極的に情報発信をしていく必要があると思います。もちろん本業を疎かにすることはできませんから、副業としてでも、まずは動き出すことが必要だと思います」(池尾代表)。

 最後に池尾代表は、若者たちに向けて大工の面白味を語ってくれた。
 「物づくりの魅力は、ほしいものが全部自分の手でつくれるということです。また、お客さまも家という『夢の設計図』についてお話にこられるわけですから、対面する私たちはずっと幸せな顔を見ていられますので、雰囲気も自然と良いものになっていきます。もちろん苦労はありますが、ほかの業種に比べると、幸せな職場環境だと思います」(池尾代表)。

 現在、池尾代表は大工志OBによる全国大工志の会代表や、日本民家再生協会、伝統木造技術文化遺産準備会などの活動にも参加しながら、日々の仕事に励んでいる。「好きなことを好きなペースで」。こだわりをもって挑む物づくりの現場では、そんな働き方も決して夢物語ではないことを、池尾代表は教えてくれる。

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