2024年12月11日( 水 )

33期連続の増収増益で小売業界4位 「ドン・キホーテ」が勝ち続ける理由(後)

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 「ドン・キホーテ」のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の2022年6月期の売上高は、前期比7.2%増の1兆8,312億円、営業利益は同9.2%増の886億円。1989年の1号店出店から、33期連続の増収増益で、小売業界4位にまで上り詰め、今期も第1四半期は、それぞれ6.3%増、48.4%増と好調だ。強さの源泉はどこにあるのか、さまざま角度から分析し解明する。

現場への権限委譲と「顧客最優先主義」(つづき)

ドン・キホーテ     現場の権限は大きく、店長や社員だけではなく、アルバイトやパートにも任される。自身で仕入れた商品を自身で考えた売り場で売るだけに、責任は大きくなるがモチベーションの向上にもつながっている。店ごとの実績が公表され、店長をはじめ社員に対して、基準に基づいた公平でシビアな評価が下される。

 能力主義が徹底され、評価は給与や昇進に反映されるが、果敢な挑戦と速やかな撤退は同時にあると考え、たとえ失敗しても再チャレンジが許される。能力主義を標榜する企業は多いが、ドン・キホーテには現場従業員の一体感と実行力が重要視され、「主権在現」という言葉があり、すべての面で徹底され、透明性の高いものとなっている。

 マネジメントの根幹である「権限委譲」は、主体的でない人にとっては苦痛になるが、肯定的にとらえる人にとっては、創意工夫を発揮して挑戦することにつながり、グループの企業原理「顧客最優先主義」の実現に貢献する。

 ドン・キホーテのバイブル的な存在である企業理念集『源流』には、「顧客最優先主義」について、「顧客は自らの利益と楽しみのために、当社の店舗が自分にとって最も好都合な店だからこそ来店し、買い物をするのである」と記されている。こうした当たり前の状態を、店として常に実現し、維持していかなければ今後の成長も発展もあり得ない」と断言している。

 この企業原理を基に、いかなる環境変化にも傍観することなく、この考えをお題目ではなく組織の隅々まで浸透させて行動規範として定着させ、売り場の改善や業態創造によって「顧客にとって最も好都合な店」をかたちにして成長し続けていこうとしている。

 そのうえで、営業利益にフォーカスした営業方針にシフトしており、その具体策と現場の実践によって業績の改善に努めて収益の向上を図っていく。

ビジョナリー・カンパニー目指しDXでアップデート

キラキラドンキ     20年2月に発表した「Passion 2030」を改訂し、同年8月に新たな中長期経営計画「Visionary 2025/2030」を定めた。そこでは米国の著名なビジネスコンサルタント、ジム・コリンズ氏による「ビジョナリー・カンパニー」の実現を目標としている。「ビジョナリー・カンパニー」とは、それぞれの業界で卓越した存在で、社歴が長いのに、適宜変化に柔軟に対応し、広く社会に認知されている企業をいう。

 「どんな製品、サービス、すばらしいアイデアも、どれほど優れたビジョンに基づくものであっても、やがては時代遅れになることを忘れてはならない」「いまある製品のライフサイクルを越えて、会社として変化し、発展し続ける力があるかぎり、時代遅れにはならない」という考えだ。こうした考えを基本に据えて、利益の追求に貪欲な企業であり続けながら、永続的に成長できるビジョナリー・カンパニーを目指していこうとしている。

 「Visionary 2030」では、営業利益2,000億円を数値目標としており、売上目標を掲げないのは、売上至上主義からの脱却と利益重視の戦略へのシフトによるものだ。この先も起こり得る環境変化に対し、「顧客最優先主義」に基づいてビジネスモデルを柔軟に変化させ、営業利益を追求していくことで企業価値の最大化を図ろうとしている。

 「Visionary 2025」の3カ年計画では、目標として売上高2兆円、営業利益1,200億円の達成、利益成長率10%以上の実現を掲げ、ポストコロナ時代における変化への対応によって成長し続けるとする。その実現に向け、国内事業では会員数1,000万人を突破したmajica(まじか)アプリを活用し、商品開発から販促、販売、決済まで、顧客の変化したニーズや購買行動に適応した新たなバリューチェーンを構築していく。

 デジタル・データ戦略も加速化させる。これまでの試験的な取り組みから得た知見を基に、事業のなかに実装して活用していくフェーズへと移行し、組織の新設・再編を行い、「顧客接点」の改善、「顧客理解」の改善、「顧客体験」の改善を目指すとしている。まず店舗内外を問わずオフライン・オンラインで商品の検索・購買・決済ができるシームレスなチャネルの提供に取り組んでいる。商品・顧客情報を一元的に管理するインフラ基盤を構築し、22年9月には顧客の利便性向上とともに、顧客接点の創出を実現する新サービス「New majica」をスタートさせた。購買履歴など顧客情報の収集・分析を進めることで一層の顧客理解に努め、グループ事業の継続的な進化につなげていく予定だ。

 そしてDXを通じて、ドン・キホーテが目指しているCV(コンビニエンス)+D(デイリー)+A(アミューズメント)をアップデートしていこうとしている。

(了)

【西川 立一】

(中)

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