2024年05月17日( 金 )

坐して自滅を待つのではなく~反撃能力保有を閣議決定(後)

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DEVNET JAPAN顧問
前駐ノルウェー日本国大使
田内 正宏 氏

 Net I・B-Newsでは、ニュースサイト「OTHER NEWS」に掲載されたDEVNET INTERNATIONALのニュースを紹介している。DEVNET(本部:日本)はECOSOC(国連経済社会理事会)認証カテゴリー1に位置付けられている(一社)。「OTHER NEWS」(本部:イタリア)は世界の有識者約1万4,000名に英語など10言語でニュースを配信している。今回は2月24日掲載の記事を紹介する。

2:日本は反撃能力保有を閣議決定

(1) 防衛三文書の閣議決定

国会 イメージ    日本政府は2022年12月16日、日本国の外交・防衛の基本方針となる「国家安全保障戦略」、防衛省・自衛隊が採るべき防衛行動の方針となる「国家防衛戦略」、及び防衛省・自衛隊が保有すべき防衛力の水準を示す「防衛力整備計画」の新防衛三文書を閣議決定した。

 この新防衛三文書の閣議決定で、我が国の安保政策は、

1:戦後政策判断で持たずにきた反撃能力の保有を決定し、米製トマホークなど長距離ミサイルを導入する、
2:防衛予算を歴代内閣が目安としてきた1%枠を打破し、27年度の防衛関連費をGDP比2%に倍増。2023年度から2027年度までの5年間における本計画の実施に必要な防衛力整備の水準に係る金額は、43 兆円程度とする、
3:対中認識をこれまで「国際社会の懸念」としていたが、中国の動きを国際秩序への「最大の挑戦」と明記し表現を強めた、
4:脅威を直視しない「基盤的防衛力構想」の考え方から脱却し、継戦能力を確保・維持するため必要な弾薬・部品を調達する方針に変わる、
5:装備品移転 防衛装備品を輸出する条件を定めた「三原則」の見直しを明記。品目や相手国の拡大を想定して防衛装備品の移転を推進する、などとした。 

(2) 反撃能力の保有

 反撃能力の保有は三文書改定の柱である。国家は、国連憲章上及び日本国憲法上、国家の権利として自衛権を有し、この自衛権は、憲法第9条との関係でも放棄されていない。その自衛行動をとるために必要とされる実力を保持することは、国際法上はもちろん、日本国憲法上も否定されていない。

 今回の防衛三文書が保有を決定した「反撃能力」とは、我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が友好な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力をいう 。

 この反撃能力は、国の存立と国民を守るために必要最小限度の自衛の措置として武力行使の新三要件(下記参照)を満たす場合に初めて行使されるものであるから、専守防衛の考え方を変更するものではなく、国際法や憲法の範囲内のものである。武力攻撃が発生していない段階で自ら先に攻撃する先制攻撃は許されない 。

 こうした有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。その上で、万一、相手からミサイルが発射される際にも、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぎ、国民の命と平和な暮らしを守っていく。

 相手方の武力攻撃を抑止するためには、「武力攻撃が反撃を受けることにより生じる損害というコストに見合わないと認識させ得るだけの能力 を有することを意味する。つまり、相手にとって軍事的手段では我が国侵攻の目標を達成できず、生ずる損害というコストに見合わないと認識させ得るだけの反撃能力を我が国が持つことを意味している。

(3) 反撃能力の行使は自衛の範囲内

 反撃能力については、1956年の鳩山一郎首相答弁(船田中防衛庁長官代読)において、
わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万止むを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である、としてきた。これまでも反撃能力を有することは法理的には自衛の範囲内であるが、「現状では敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有しておらず、・・・自衛権の行使として敵基地攻撃を行うことは想定していない」という言い方をして、政策判断として反撃能力を保有することとしてこなかったものであるが 、安全保障環境が厳しくなるに伴い、反撃能力の保有により、武力攻撃があった場合に、反撃能力を行使し損害の最小化と更なる攻撃の抑止を行うこととされたものである。

(4) 武力行使の三要件を満たす場合に反撃能力は認められる

 反撃能力の行使として行われる武力行使は、2015年の平和安全法制に際して示された武力の行使の新三要件を満たす場合に行われうるものである。その武力行使新三要件は、1:我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること、2:これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと、3:必要最小限度の実力行使にとどまること、である。あくまでも我が国の存立を全うし、日本国民の命と平和な暮らしを守るための必要最小限度の自衛の措置を認めるだけであり、他国の防衛それ自体を目的とするものではない。

3:平和国家としての理念

 わが国は戦後一貫して平和国家としての道を歩み、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた。国の存立と国民を守るために反撃能力を保有することは法理的に可能としてその能力の確保・維持に努めつつ、日米同盟の強化、域内外のパートナーとの信頼・協力関係の強化により、アジア太平洋地域の安全保障環境を改善してわが国に対する直接的な脅威の発生を予防し削減すること、さらには普段の外交努力により、普遍的な価値やルールに基づく国際秩序の強化や紛争の解決に主導的な役割を果たし、グローバルな安全保障関係を改善していくことを目指していくことは常に必要である。

(了)

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